理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ワーキングメモリの容量が立位姿勢制御能力に及ぼす影響
藤田 浩之信迫 悟志植田 耕造粕渕 賢志冷水 誠森岡 周
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p. Ab0673

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抄録
【はじめに、目的】 ヒトは日常生活の中で周囲環境からもたらされる多種多様な情報の中から必要なものを選択し,その場面に応じた適切な姿勢を保持している.また,同時にそれらの情報の処理と保持を行っており,この処理の過程にはワーキングメモリ (以下WM) が大きく関与する.先行研究では二重課題(dual task)を用いた検討がなされ,dual taskを課した際の立位姿勢能力について多くの報告が見られる.しかしながら,二重課題での立位姿勢制御能力は抑制されるといった報告や二重課題での立位姿勢制御能力は促通されるといったように報告など,未だ散見される結果である.一方で,二重課題への影響が大きいと考えられている個人の持ち得るWMの容量と姿勢制御能力を検討した報告は見当たらない.二重課題時の立位姿勢制御能力は,個人のWM能力に依存する可能性がある.そこで本研究は,個人の持つWMの容量に着眼し,その能力と立位姿勢制御能力についての検討を行った.【方法】 重篤な整形外科疾患,認知機能に問題を有さない若年成人男性27名,女性35名の計64名(23.8±3.7)を対象とした.まず個人のWM容量をリーディングスパンテスト(以下RST)にて評価し,その成績によってスコア3.5以上のものを高群,スコア2.5以下のものを低群の2群に群分けした.中間点数であるスコア3を記録した被験者24名を除外対象とした.さらに,両群に対して30秒間の立位姿勢能力を評価した.その評価にはシート式足圧力計測装置(ANIMA)を用いた.指標は総軌跡長を採用した.立位姿勢課題は,安静立位条件,dual task立位条件,dual task片脚立位条件の計3条件とした.Dual task条件では,被験者に立位姿勢保持を要求するとともにストループテストを実施した.ストループテストは文字の意味とは異なる色で書かれたものを読み,何色で書かれているかを口頭で返答させた.そのテストは秒間1題で行い,合計30問の中から正答数を算出した.統計学的処理は得られた結果をもとにPrism (MDF.,Ltd.) にて「RSTの高群及び低群の総軌跡長の比較」を要因1,「立位姿勢条件の相違による総軌跡長の比較」を要因2として二元配置分散分析を行った.また,post hoc analysisとしてはBonferroni法を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 すべての被験者に本実験への説明を十分に行い参加への同意を書面で得たうえで実験に参加した.また,実験の途中であっても中断できることを予め伝えた.【結果】 要因1であるWMの低群と高群の総軌跡長の比較においては,低群で総軌跡長の有意な増加が認められた(p<0.01).また,要因2である立位姿勢条件の相違による総軌跡長の比較においても条件による有意な差を認めた(p<0.01).post hoc analysisでは両群で安静立位姿勢条件,dual task 立位姿勢条件に有意な差を認めず,dual task片脚立位条件でのみ有意な増加を認めた(p<0.01).加えて要因間の相互作用を認めた(p<0.01).【考察】 本研究においてWMの容量が大きい高群ではdual task条件においても大きく重心動揺を変化させることはなかった.一方, WMの容量が小さい低群では安静立位条件,dual task立位条件において高群と著明な差を認めなかったもののdual task片脚立位条件において著明な差を認めた.dual taskを用いた先行研究では,さほど複雑でない条件に比べ,困難な条件においては立位姿勢動揺に有意な増加を示すことが報告されている(Woollacott 2001).本研究においても先行研究同様に立位姿勢条件に比べ,姿勢の保持により難易度が求められる片脚立位保持で有意な重心動揺の増大を認めた.しかしながら, WMスコアの高群と低群の総軌跡長結果において交互作用を認めたことは,姿勢保持の難易度のみならず,個人のWM容量の影響も関与していることが明らかになった.このことから,立位姿勢動揺の増減は,姿勢の条件変化によるものだけでなく,個人のWM容量も影響を及ぼすことが示唆された.本研究結果から,個人の持ち得るWMの容量も重心動揺に影響することが明らかになり,今後,二重課題の実践においては,個人のWM容量を評価することが求められよう.【理学療法学研究としての意義】 近年,二重課題を用いた姿勢バランス練習が理学療法にも取り入れられ,それが転倒予防に対して有益な効果をもたらしている.今後,二重課題の介入内容や課題刺激に対する身体反応時間などの評価に加え,個人の持ち得るWMの容量も理学療法評価に取り入れるべきことを本研究結果が示した.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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