抄録
【はじめに、目的】 再呼吸中に再呼吸バッグ内のCO2分圧(PCO2)は上昇し、呼吸交換比(RER)は直線的に低下する。「安静時および2段階以上の運動時のRER-PCO2の回帰直線が1点で交わり、その値から肺胞気CO2分圧(PACO2)が推定できる。」という仮説を検証し、PACO2の新しい推定法を開発することを目的とした。【方法】 対象は20歳代の健常男性19名で安静時およびトレッドミル運動時に再呼吸(閉鎖系呼吸)と定常呼吸(開放系呼吸)の2実験を順序ランダムで行った。負荷設定は、傾斜0度で、速度5.0および7.5 km/hとし、各5分間の運動を行った。空気を運動負荷に応じて一定量充填したバッグを用いて、安静時および運動時の各5分間の内4~5分の間に呼吸数毎分30回でメトロノームに合わせて再呼吸を行った。バッグ内O2、CO2濃度からRERを算出し、RER-PCO2の回帰直線を求めた。定常呼吸の実験は、PACO2に近似する呼気終末CO2分圧(PETCO2)を測定するために行った。PETCO2は1回換気量(TV)に依存するのでTVで補正してPJCO2とした。統計は、RER-PCO2の回帰直線の交点について、安静時および運動時の3つの交点の一致性を一元配置分散分析およびBland-Altman解析で、有意水準5 %で検定した。さらに3本の回帰直線から得られる3つの交点間の比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は山形県立保健医療大学倫理委員会で承認を得た後、対象者には事前に文章と口頭にて研究目的、方法などを十分に説明し文章で同意を得た。【結果】 安静時および運動時のRER-PCO2の3本の回帰直線の3つの交点の平均値±標準偏差(SD)は、35.2 ± 4.89、34.9 ± 4.24、35.2 ± 6.03 Torr(n = 19)で群間に有意差はなかった。3つの交点の2つの組み合わせに関するBland-Altman解析で測定値が平均 ± 1.96SDの範囲に入り、加算誤差が存在しなかった。上記3つの交点の平均値およびPJCO2は、それぞれ35.1 ± 4.56および35.6 ± 2.55 Torr(n = 19)で群間に有意差はなかった。また、交点のPCO2とPJCO2のBland-Altman解析で測定値が平均 ± 1.96SDの範囲に入り、加算誤差が存在しなかった。【考察】 安静時および2段階以上の強度での運動時に再呼吸を行うことで得られるRER-PCO2プロットの3本の回帰直線の交点PCO2に有意差がなく、その値がPJCO2と有意差がなかったことから、RER-PCO2の回帰直線が1点で交わり、その値からPACO2が推定できるという仮説が検証された。【理学療法学研究としての意義】 呼吸循環器系の理学療法を展開するうえでPACO2はリスク管理、評価、治療効果を検証するために重要なパラメーターである。PACO2は一般に動脈血PCO2として推定されるが、再呼吸法でPACO2を非侵襲的に推定することができれば呼吸生理の観点からも意義のあることである。