抄録
【はじめに、目的】 我々は、第10回日本PNF学会において、下部体幹を強化するパターン(下部体幹の屈曲パターン)の実施直後の血圧と呼吸機能に関して、運動中に息をこらえるいわゆる「いきみ」の時と、運動中に意識的に呼気を行う時の、血圧変動および呼吸機能への影響を検討し、意識的に呼気しながら行うことで、過度な血圧上昇を抑制し、吸気の増大を伴った相対的な肺活量の増大に有益であることを報告した。これまでにも運動中の呼気実施は、過度な血圧上昇を抑制するため有益であることは多くの報告にもあり、我々の検討においても同様の結果であった。しかし運動中の呼気実施が呼吸機能にどのような影響をもたらすかについてまで言及された報告は少ない。臨床においても体幹筋の強化の際に、呼気を意識的に行うことで肺機能改善に有益であるという結果を示唆するものであった。しかし具体的に呼気の実施方法について定義した方法ではなかったため、今回は呼気の様式を「弱い呼気」と「強い呼気」で変化させた時にどのような変化がみられるかを検討したので報告する。【方法】 健常な男女13名(平均年齢±標準偏差;24±6.2歳、平均身長±標準偏差;170.7±8.1cm、平均体重±標準偏差;60.2±8.9)を対象とした。方法は呼気の強弱を測定するために、まず自作の呼気流量計とスパイロメーター(ミナト医科学社製AS507)をそれぞれ空気の漏れがないよう確実に接続したものを準備した。次いで被験者に呼気流量計につけたマウスピースを咥えさせ、可能な限り強く呼気するように指示し、数回のFVC測定の中からピークフロー(PEFR)の値が最大のものを採用した。その値を基に、弱い呼気を定義するための測定を呼気流量計のマウスピースを咥えて呼気をさせ、次は呼気流量計の中にあるプラスティック製のボールを浮き上がらせるようにして行った。それと同時にFVCを数回計測しながら、中のボールが呼気流量計の目盛りで100ml付近を浮遊する程度の呼気が行われた時点でのPEFRの値を求めた。この時の値が前もって計測した最大呼気時のPEFR値の20%以内に収まるよう被験者に呼気を調節してもらったものを「弱い呼気」として定めた。具体的には、ボールが100ml付近を浮遊する程度の呼気が行われた時点での強さが20%以上であれば、それ以下の強さとなるように目盛りを読みながら、呼気の強さを調節させた。PNF課題は、下部体幹の屈曲パターン(以下、LTF)とし、LTF実施の際に「弱い呼気」を行わせた課題と、LTF実施の際にできる限り強く呼気をさせる「強い呼気」とを実施した。それぞれの課題の間には十分な休憩をとりながら、それぞれの影響が残らないように行った。計測は呼気流量計との接続を外したスパイロメーターのみを使用し、安静時および「弱い呼気」直後、「強い呼気」直後のVC(L)、IRV(L)、ERV(L)、IC(L)、TV(L)、PEFR(L/S)を比較した。危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本校倫理委員会で承認を得たのち、被験者全員に本実験の趣旨を十分に説明し、同意を得てから実施した。【結果】 VC(L)が安静時4.06±0.7、弱い呼気後4.26±0.7、強い呼気後4.31±0.8、IRV(L)が安静時1.67±0.3、弱い呼気後1.94±0.4、強い呼気後1.98±0.5、IC(L)が安静時2.34±0.4、弱い呼気後2.68±0.4、強い呼気後2.70±0.6で、弱い呼気後と強い呼気後のVC、IRV、ICは、安静時のものに比べ有意に増大した(p<0.05)。しかし、弱い呼気後と強い呼気後の値に有意な変化は認められなかった。また、安静時のものに対し、それぞれの呼気後のERVは減少傾向にあり、同じく安静時に対し、それぞれの呼気後のTVは増大傾向にあったが、それぞれ有意な変化は認められなかった。【考察】 このことから体幹筋強化の際に呼気を促して行う方法としては、呼気の強弱に関わらず呼気を行うことでEELV(呼気終末肺容量)を軽減させることが分かった。通常LTFは下部体幹筋の促通や強化を目的として用いられる手技であるが、即時的な効果がある反面一般的な腹筋強化トレーニング同様にいきみを起こしやすい。このため、実施中に呼気を合わせて行うことで、呼気筋のみならず吸気筋の活動を促すことができる可能性があることが今回の結果から分かった。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果は、多くの呼吸器疾患でみられるEELVの増大を軽減させる効果を示唆する内容であった。臨床では過度な血圧上昇を抑制する目的で呼気を促しながら運動療法を実施することが多いが、弱くても呼気を行いながら運動療法を実施することで、吸気の増大が得られ肺活量を増大させられれば、易疲労性によって運動が継続できづらい患者の耐久性向上に効果があることが示唆される。