抄録
【はじめに、目的】 超音波診断装置を用いることで体幹深部に存在する腹横筋の筋厚を非侵襲的に測定することが可能である。運動時あるいは運動効果の判定などで腹横筋の筋厚を反復して測定する場合には、被験者の姿勢、プローブを接触させる場所、方向、力を一定にすることで信頼性を高めることが望まれる。しかし、プローブを腹部に接触させる力が腹横筋の筋厚に及ぼす影響について明らかにした研究は検索した範囲で認められない。そこで、本研究では、超音波診断装置のプローブを腹部に接触させる力の違いが腹横筋の筋厚に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健康な男性10名(平均年齢20.3±0.7歳、身長173.7±7.2cm、体重63.2±8.1kg)とした。背臥位にて肋骨弓下端と腸骨稜上端の中間で中腋窩線の2.5cm前方にAloka社製超音波診断装置(SSD-3500SX)の10MHzのリニア型プローブを接触させ、Bモードにて側腹部の画像化を行った。プローブを腹部に接触させる力は、3種類のアキュレイト社製定荷重バネ(CR-1、CR-2、CR-3)の取り替えが可能な自作のホルダーを用いることで約0.5N、1.0N、2.0Nに調節した。静止画像の撮影は安静呼吸の呼気が完了した瞬間とした。撮影は各3回で測定条件の順番はランダムとした。計測部位は撮影した画像の左右を二等分する位置に統一し、皮下組織、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の厚さ(mm)を計測した。統計にはSPSS ver. 16.0を用い、反復測定による一元配置分散分析、Bonferroniの多重比較にて3条件を比較した(p<0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い、同意を得てから計測を行った。【結果】 以下に(0.5N、1.0N、2.0Nでの厚さ)の順で示す。皮下組織(8.3±2.3、7.5±2.1、6.8±1.6)、外腹斜筋(11.0±2.7、10.6±2.6、9.7±2.4)、内腹斜筋(12.0±3.4、11.3±3.2、10.8±3.0)はすべての条件間に有意差があり、接触させる力が強いほど厚さは減少した。腹横筋(4.4±0.9、4.2±0.9、4.0±0.8)は0.5Nと1.0N間を除いてすべての条件間に有意差が認められ、接触させる力が強いほど厚さは減少した。【考察】 本研究の結果から、超音波診断装置のプローブを腹部に接触させる力の変化が0.5N程度では腹横筋の筋厚に影響を与えないことが分かった。しかし、接触させる力が1.0N程度変化すれば、腹横筋の筋厚にも影響が出るため、徒手的にプローブを持って測定する際には慎重さが求められると考える。Akbariら(2008)は8週間の縦断的な研究で運動によって腹横筋が肥大したことを報告しており、その際の筋厚の変化はmotor control exerciseで約0.5mm、general exerciseで約0.3mmとしている。この程度の変化はプローブを接触させる力で変わるものであり、わずかな筋厚の変化を計測する研究では、接触させる力を一定にするという方法が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、超音波診断装置のプローブを腹部に接触させる力が変化することで、腹横筋の筋厚も変わってくることを示し、運動時あるいは運動効果の判定などで腹横筋の筋厚を測る際の基礎的資料として意義がある。