抄録
【はじめに、目的】 前方ステップ動作には下肢機能のみならず,体幹機能が影響を与えることが先行研究により述べられており,ステップ側の体幹筋では内腹斜筋の筋活動が増加することが報告されている.近年は,体幹深部筋である腹横筋の活動が姿勢の安定化に関与していることが報告され,超音波画像診断装置を用い,その筋厚について測定した報告がなされている.しかし,体幹機能も関与すると考えられる,ステップ動作についての報告はない.また,腹横筋は姿勢安定化に重要とされるが,そのエクササイズは腹部引き込みなど,高齢者には意識しづらいものが多い.ステップ動作において,内腹斜筋同様に,腹横筋活動がみられれば,その運動療法として活用できる可能性がある.そこで,本研究の目的をステップ動作後のステップ側,非ステップ側に着目し,側腹部筋厚について,超音波画像診断装置にて撮像,安静立位時との変化を測定することとした.【方法】 対象は健常若年男性20名(平均年齢20.8±2.4才,平均身長171.1±4.1cm,平均体重61.5±5.4kg,平均腹囲74.1±4.0cm)とした.測定にはESAOTE社製デジタル超音波診断装置MyLab25を用い,Bモードで7.5MHzリニア式プローブを用いた.画像の撮像および筋厚の計測は同一検者がおこなった.測定部位は前腋窩線上,肋骨下縁と腸骨稜の間で,外腹斜筋(External Oblique:以下EO),内腹斜筋(Internal Oblique:以下IO),腹横筋(Transversus Abdominis:以下TrA)の境界が表出できる側腹部とし,立位にて決定した.測定は安静立位および右下肢前方ステップ動作時の左右それぞれの側腹部で,各3回の測定を行った.測定条件として,安静立位は自然立位とし前方に設置したマーカーを注視するように指示した.ステップ動作は歩行時の歩幅と同程度となるよう,被験者に自由歩行をさせた後,その歩幅となるよう意識させ,右下肢を前方にステップし,左踵離地した後,その肢位を保持させた.また,視線は安静立位と同様とした.被験者は測定姿位を10秒間保持した.筋厚の計測には,得られた動画から呼気最終域の静止画を抽出したものを用い,同機器の計測機能を利用し0.1mm単位で計測した.左右のEO,IO,TrAの筋厚について各3回の測定の平均値を求め,安静立位時と右ステップ動作後の差について,それぞれ対応のあるt検定を用いて解析した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の実施にあたり,被験者には文書にて説明し,同意を得た.また,本研究は金沢大学医学倫理委員会の承認(承認番号:319)を得て実施した.【結果】 ステップ側である右側腹部の筋厚については安静時EO:8.4±1.4mm,ステップ動作後EO:9.2±1.7mm(p<0.001), 安静時IO:11.9±2.5mm,ステップ動作後IO:13.1±2.2mm(p<0.05),安静時TrA:5.4±1.3mm,ステップ動作後TrA:6.0±1.3mm(p<0.05)であり,3筋ともステップ動作後有意に増加した.また,非ステップ側である左側腹部の筋厚については,安静時EO:8.3±1.7mm,ステップ動作後EO:7.9±1.8mm(p<0.05),安静時IO:12.3±2.4mm,ステップ動作後IO:11.3±2.2mm(p<0.01),安静時TrA:5.5±1.3mm,ステップ動作後TrA:5.0±1.4mm(p<0.01)であり,3筋ともステップ動作後に有意に減少した. 【考察】 本研究の結果より,ステップ動作後のステップ側では,側腹部筋厚は有意に増加した.内腹斜筋については,表面筋電図を用いた先行研究の結果を支持するものと考えられる.また,我々は第27回東海北陸理学療法学術大会にて,片脚立位時の側腹部筋厚変化について報告しており,その際,すべての筋において安静時との有意な変化を認めなかった.今回用いたステップ動作も,片脚立位同様,ほぼ全体重が片脚に移動する動作であるが,片脚立位と異なり安静時との比較において有意差がみられた.これは,我々が行ったつま先が浮く程度の片脚立位では起こらなかった,骨盤の前傾が加わったことが一因と考えられる. 今後は,動作解析も加え,骨盤傾斜との関係を明らかにすることで,ステップ動作を有効な体幹筋エクササイズとする可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 ステップ動作後の側腹部筋厚を測定することで,ステップ動作が体幹筋に与える影響をあきらかにし,体幹筋に対する運動療法としての可能性を示すことが,本研究の意義と考える.