理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
持続筋収縮時の大脳皮質活動と筋活動の経時的変化
─頭皮血流量,血圧の変動が酸素化ヘモグロビンに与える影響を考慮して─
宮口 翔太椿 淳裕
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p. Ab1071

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抄録
【はじめに、目的】 近赤外光イメージング装置(NIRS)は,中枢神経系による筋活動調節のメカニズムを解明する研究に応用され,近年,持続筋収縮時の脳活動と筋活動の変化に関する研究が行われている.しかし,NIRSで計測した値は,運動課題中に変化する頭皮や頭蓋骨板間などの血流量の影響を受けてしまい,純粋な脳活動指標としての信頼性が損なわれることが報告されている.そこで頭皮血流量や血圧の影響を取り除いた純粋な脳活動指標を計測することができれば,中枢神経系による筋活動調節のメカニズム解明の一助になると考えた.近年Ludovicoらは,プローブを1 cm間隔で配置した結果,脳組織を含まず,完全に頭皮や皮下組織の血流を計測したことを報告している.また,プローブを2 cm間隔で配置した結果,大部分は頭皮や頭蓋骨における血流を計測したとの報告もあり,脳活動のみを計測できる可能性が示されつつある.そこで本研究は,プローブ間隔1.5 cmを用いて大脳皮質領域直上の頭皮血流量を計測し,プローブ間隔3 cmで計測した血流量から差し引いた値を,血圧および頭皮血流の影響を取り除いた純粋な脳活動と仮定し,持続筋収縮時の大脳皮質活動と筋活動の経時的変化の検証を目的とした.【方法】 対象は,右利き健常成人6名(年齢21.2±0.4 歳)とした.課題動作は最大随意収縮での等尺性収縮によるハンドグリップとし,180 秒間施行した.NIRS(OMM3000/16,島津製作所)を使用し,プローブ間隔3 cmでは大脳皮質運動野領域における酸素化ヘモグロビン量(OxyHb)を計測した.またプローブ間隔1.5 cmでは浅層組織酸素化ヘモグロビン量(S-OxyHb)を計測し,頭皮血流量を反映する指標と仮定した.照射プローブと受容プローブは国際式10-20法に基づくCzを基準に,左頭頂葉に縦3列,横8列で配置した.また,連続血圧血行動態測定装置(Finapres,Monte System C)およびレーザー組織血流計(OMEGA FLOW FLO-C1,OMEGAWAVE社)を使用し,平均血圧(MAP)および,前頭部の頭皮血流量(SBF)を計測した.握力計(MLT003/D Grip Force Tranducer,ADInstruments)により右上肢把持力(force)を,筋電計(DPA-2008,ダイヤメディカルシステム)により腕橈骨筋,指伸筋,尺側手根屈筋,長掌筋の筋活動を,サンプリング周波数1 kHzで抽出した.force,MVCは最大随意収縮時の値にて正規化し,MVCについては課題開始直後の値からの減衰率を求めた.OxyHbは運動野領域の相当する6チャネル,S-OxyHbは運動野領域上の2チャネルの平均値を算出した.課題遂行中のS-OxyHb,SBF,MAPの値は,安静時からの変化量を算出し,ピアソンの相関係数の検定により3つの値相互の相関関係の強さを求めた.有意水準はいずれも5 %とした.OxyHbとMVCの減衰率について,課題遂行中の時間を3区間(0~29 sec,30~119 sec,120~180 sec)に分け,各区間ごとに有意水準5 %でピアソンの相関係数の検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.また,測定前後に関わらず,研究への参加を辞退することが可能である旨も伝えた.【結果】 S-OxyHbとSBF,S-OxyHbとMAP,MAPとSBFとの間に,それぞれ相関係数0.60~0.78(p<0.001),0.56~0.92(p<0.001),0.61~0.76(p<0.001)の正の相関関係を認めた.OxyHbはハンドグリップ開始後,増加し,150秒後に徐々に低下し始めた.課題遂行中の0~29 秒区間,30~119 秒区間,120~180 秒区間のOxyHbとMVCの減衰率との間の相関係数は,それぞれ0.48(p<0.001),0.55(p<0.001),0.10(p=0.085)であった.120~180 秒区間では正の相関関係は認められなかった.【考察】 S-OxyHb,SBF,MAPの相互の相関関係から,S-OxyHbの値が頭皮血流量や血圧の変化を反映していた可能性が示唆され,NIRSで計測したOxyHbの値からS-OxyHbの値を取り除くことで,課題中の血圧変動の考慮が可能であると考えられる.持続筋収縮時の脳活動,筋活動の関係については,これまでの報告同様,ハンドグリップ開始後の筋活動の低下に伴い,運動野領域の活動は増加し続けたことを示す.課題開始初期の運動野の活動増加は,目的とする筋出力を維持するための皮質の出力ニューロンの活性化を表すことが考えられる.しかし,中枢の出力ニューロンの活性化では完全に筋出力を維持することはできず,末梢の筋の疲労により,筋活動,および把持力が低下したのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】 理学療法実施中の脳活動を,NIRSを用いて明らかにしようとする場合,S-OxyHbを差し引くことで純粋な脳活動が計測できる可能性が示された.これにより,運動課題遂行中の大脳皮質活動の計測をより正確に示すことができ,理学療法手段の根拠を示す研究を展開させていくことができる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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