抄録
【はじめに、目的】 筋の発達や萎縮の指標として、臨床では簡便な方法である大腿周径がよく用いられている。近年では、超音波診断装置の進歩により、人体の形態的特徴を観察することが可能になり、筋の発達や萎縮についてより正確で詳細な評価が可能になった。超音波診断装置を用いた筋の形態的特徴の評価としては、筋厚の測定が一般的で多くの報告があるが、他にも羽状筋における筋線維の走行角度、すなわち羽状角の測定がある。羽状角については、トレーニングによって上腕三頭筋羽状角と筋厚の間に正の相関があることや、筋肥大に伴う羽状角の増加が報告されているが、筋厚や羽状角の筋形状は、必ずしも対応して変化するものではないといわれている。また、筋力は筋断面積に比例するため、羽状筋においては羽状角が大きいほど生理学的断面積が大きくなり、筋力に影響を与える因子であることがいえるが、筋力と羽状角の相関関係についての報告は少ない。よって、本研究では、大腿周径と、大腿四頭筋(以下Quad)の中でも報告の多い外側広筋羽状角について、筋力との関連性を検証することを目的とし、さらには体力を表す指数である体重支持指数(Weight Bearing Index:以下WBI)との関係についても検討した。【方法】 対象は下肢機能に問題のない健常人33名(男性27名、女性6名)、平均年齢は24.1±3.6歳、平均身長は168.0±7.1cm、平均体重は64.8±9.2kgであった。筋力測定にはBIODEX社製system3を用い、等尺性収縮の測定は、坐位で膝関節屈曲70度位にてQuadの随意最大筋力を5秒間測定した。等速性収縮の測定は坐位で膝角度0~90度を1往復として、求心性収縮60deg/secおよび180deg/secをそれぞれ最大努力5回連続で行った。得られたデータより、Quadのピークトルク値の体重比を求めた。 WBIはQuadの等尺性収縮ピークトルク値を体重比にて算出した。羽状角の測定は、超音波診断装置(コニカミノルタエムジー株式会社製SONIMAGE513)を用い、Bモード、プローブは10MHzにて長軸走査で安静時右側を測定した。測定肢位は背臥位で、測定部位は大腿骨長軸の50%部位で大腿外側面(大転子と大腿骨外側顆を結んだ線上の中点)とした。測定の際は、プローブを皮膚面に垂直に保持し、筋組織を圧迫しないよう皮膚に軽く接触させて行った。得られた画像から、外側広筋と中間広筋の間の深部筋膜と外側広筋の筋線維の走行方向がなす角度を画像処理ソフトImageJにて測定した。大腿周径は羽状角の測定と同一部位である大腿骨長軸の50%の位置で、メジャーにて測定した。統計学的解析は羽状角とWBI、Quad筋力、大腿周径との関係にはSpearmanの順位相関係数を用いた。また、大腿周径とWBI、Quad筋力の関係にはPearsonの積率相関係数を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に動作を口頭で説明するとともに実演し、同意を得たのちに実験を行った。【結果】 羽状角(平均20.33±3.28度)とWBI(平均112.71±19.73)において正の相関(r=0.62、p<0.01)を認めた。羽状角とQuad筋力の関係は、等尺性収縮(平均3.71±0.66Nm/kg)で正の相関(r=0.56、p<0.01)、等速性180deg/sec(平均1.70±0.31 Nm/kg)で正の相関(r=0.46、p<0.01)、等速性60deg/sec(平均2.65±0.43 Nm/kg)で正の相関(r=0.50、p<0.01)を認めた。大腿周径(平均52.64±5.08cm)と羽状角、WBI、Quad筋力には相関を認めなかった。【考察】 羽状角については、等尺性収縮、等速性収縮のどの収縮様式の筋力でも正の相関が認められ、羽状角と筋力の関係性が示された。さらに、羽状角とWBIに正の相関が認められ、羽状角が体力の指標となり得ることが示唆された。これは、諸家の報告にあるように筋厚との相関があること、生理的断面積との関係が大きな要因であると考える。また、羽状角が増加することで、停止部に向かう走行となり、力の伝達効率がよくなることも要因であると考える。市橋らは、超音波画像解析による大腿四頭筋の筋厚の測定により、超音波法による筋厚の測定では、安静時だけでなく収縮時の筋厚を測定すべきこと、筋力は筋厚よりも筋体積と相関係数が高いと報告している。よって、筋厚においては筋力との相関が低く、羽状角の方が筋力を反映している可能性がある。大腿周径については、筋力、羽状角との相関が無かったため、筋の発達や萎縮の指標として用いられているが、筋力との関係は低いことが明確となった。今後さらに、高齢者や他の羽状筋についても羽状角と筋力の関係を研究する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 大腿周径よりもQuadの羽状角の方が、Quadの筋出力の指標、さらには体力の指標に成り得ることが明確になった。また、羽状角は収縮様式に関わらず筋出力を反映していることが示された。