理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
負荷設定条件の違いが呼吸循環応答に与える影響
山本 純志郎岡田 哲明原田 鉄也田平 一行
著者情報
キーワード: トルク, 回転数, 機械的効率
会議録・要旨集 フリー

p. Ab1309

詳細
抄録

【はじめに、目的】 自転車エルゴメータ運動において、回転数は筋収縮の速度・頻度に影響し、トルクは筋発揮張力に影響する。これは負荷設定条件の違いより運動時に異なる身体的応答が出現することを示している。先行研究の多くは同一仕事率における回転数の違いから検討している。しかし仕事率一定の場合、回転数の変化とともにトルクも変化するため回転数以外の要因も多く含まれる。そこで、本研究ではトルクによる影響と回転数による影響を比較し検討した。【方法】 自転車エルゴメータ(Corival, Load社)使用による20watt/minのramp負荷法(60rpm)による症候限界性心肺運動負荷試験を実施し、peak wattを算出した。その後、負荷設定条件の異なる2種類の心肺運動負荷試験を実施した。両試行は3分間の安静後、4分間の運動と4分間の安静をそれぞれ4セットで構成し、各運動(ex.)の仕事率はramp負荷法により求めたPeak Wattの30%・40%・50%・60% (30%ex.・40%ex.・50%ex.・60%ex.) とした。各試行の間は最低24時間以上をあけた。1)トルク変動運動(回転数一定)回転数を60rpmに一定とし、上記の仕事率で4種類のトルクを算出した。2)回転数変動運動(トルク一定)回転数の異なる4種類(60rpm・80rpm・100rpm・120rpm)の運動を上記の仕事率とそれぞれ対応させ一定のトルクを算出した。呼気ガス測定には、MetaMax3B(Cortex社)によりBreath by Breathで連続記録した。HRはRA800CX RUN(Polar社)により測定し、血圧・心拍出量はPORTSPRES(FMS社)により測定した。筋酸素動態は組織血液酸素モニターBOM-L1TRM(オメガウェーブ社)を用い右外側広筋筋腹で測定した。各運動の最終1分間の平均値を測定値とし、30%ex.の値を基準とした百分率で表した。統計処理としては、各試行間の比較は二元配置分散分析を、同一運動強度間の比較に対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に対し、事前に実験の目的、プロトコルおよび考えられる危険性の有無を説明した上で、実験参加の同意を得た。【結果】 回転数変動運動はトルク変動運動と比較し酸素供給系の項目が有意に高値を示した。また回転数変動運動における値の増加率は一定ではなく、二次関数的に高回転になるほど大きく増加した。筋酸素動態ではDeoxy-Hbは両試行間、各運動強度において有意な差はみられなかった。(VO2:50%ex. p=0.016, 60%ex. p=0.027、VE:50%ex. p=0.002、60%ex. p<0.001、HR:50%ex. p=0.002、60%ex. p<0.001、CO:50%ex. p=0.004, 60%ex. p=0.043、Deoxy-Hb:50%ex. p=0.9978, 60%ex. p=0.1184)【考察】 トルク変動運動に比べ回転数変動運動で酸素供給系の因子は有意に高値を示した。つまり、回転数の増加は組織の酸素需要を増加させ、その反応として換気・血流系により酸素供給が増加、結果としてエネルギー消費を増大させたると考えられる。この要因には回転数上昇に伴う筋収縮頻度増加による筋の熱産生増大(Fenn効果)や、筋収縮速度増加による運動筋のATP消費増大、また高回転運動による筋線維タイプの動員比率の影響が挙げられる。また内的仕事率のO2コストは外的仕事率のそれより大きいと報告されており、回転数の増加に伴う内的仕事率の増加も影響すると考える。これらの総和として機械的効率が低下しているためと考えられる。次に筋酸素動態に関しては、Deoxy-Hbは2施行間の各運動強度に有意差はみられなかった。Deoxy-Hbは筋血流の変化に最も鈍感で筋酸素抽出能に最も反映するとされており、負荷設定条件の違いで運動筋の酸素抽出能に及ぼす影響に差はないと考えられる。また酸素抽出能に関してはFickの法則に基づいており、次式で表される。Deoxy-Hb∝VO2m/Qm本研究では、2施行間でDeoxy-Hbに差はないが、VO2は回転数変動運動で有意に上昇した。運動時におけるVO2の上昇は運動筋のVO2mの上昇に反映することから、回転数の上昇によりVO2と同様にQmの上昇も算出できる。よって負荷設定条件の違いは末梢機能へ与える影響の差は少ないと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 回転数による負荷設定は酸素供給系・エネルギー消費系を賦活させ、同一運動強度であっても身体的負荷量を増大させる因子であることが示唆された。一方、末梢ではVO2同様に筋血流量の増大が示唆されたものの、筋酸素抽出能などの機能には大きな違いは示さなかった。臨床応用では、回転数の増加は筋張力の増大を伴わず身体的負荷量を上昇させる点での有用性と、高回転では二次関数的に身体的負荷が増加する危険性の両方を持つ運動であると考えられる。

著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top