理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
Demi-spanを用いた身長推定に関する検討
─対象者の肢位によって計測値が異なる─
神谷 訓康上坂 建太作井 大介出口 広介河野 裕治岩津 弘太郎三瓶 秀幸北野 貴之吉田 都入谷 直樹石田 慎平萩原 悠太山田 純生
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キーワード: demi-span, 身体計測, 推定
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p. Ab1320

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抄録
【背景】 Demi-spanは身長を推定するために開発された身体指標である。その定義は、肩関節外転90°、肘関節・手関節・手指関節中間位としたときの、指尖から胸骨までの距離と定義されている。Demi-spanは計測が簡便で、他の身長を推定する指標より再現性が高いと報告されており、栄養のスクリーニング尺度であるmini nutritional assessmentなどで使用を推奨されている。本邦では、Nishiwakiら(2011)が、欧米人との体格差を考慮してdemi-spanから身長を推定する式を報告している。先行研究はすべて坐位で計測を行っているが、理学療法の対象には高齢者が多く、術後早期や発症早期に全身状態不安定で、仰臥位で計測することが必要な状況がある。また、仰臥位での計測は、坐位での計測より上肢の肢位を固定しやすく、計測の再現性を高めたり、対象者が同一肢位を保持する負担を軽減したりする効果が期待できる。実際、我々が仰臥位でdemi-spanを計測し、Nishiwakiらの推定式を用いると実際の身長と大きく異なった。その理由の1つは、坐位と仰臥位で肩甲帯から上肢までのアライメントが異なり、demi-spanの計測値が変化する事が考えられた。また、Nishiwakiらは女性で153名、男性で47名と、少ない対象者から推定式を導いていることから、式の精度が低かった可能性も考えられた。したがって、本研究の目的は、1) 仰臥位でdemi-spanを計測し、先行研究の推定式から得られる値と、身長の実測値の際を検討すること、ならびに、2) 仰臥位で計測したdemi-spanから身長を推定する式を作成すること、とした。【方法】 対象は50歳以上で、立位で身長を計測できる者とした。除外基準は、両上肢に明らかな関節拘縮や手指欠損がある者、股関節または膝関節に変形性関節症の既往がある者、圧迫骨折の既往がある者、円背がある者とした。円背の定義は、Nishiwakiらが用いた方法を採用し、硬いベッドに仰臥位になり後頭部をベッドにつけた際、頭部を前後屈中間位に保持出来ないこととした。Demi-spanの計測肢位は仰臥位で、肩関節外転90°、肩関節水平内外転・内外旋中間位、前腕回外90°、肘関節・手関節・手指関節中間位とし、一側の胸骨鎖骨切痕から反対側の指尖までの距離を計測した。計測は0.1cm単位で行った。身長は身長計を用いて立位で計測した。統計解析は、demi-spanの計測値からNishiwakiらが示した式で身長の推定値を算出し、身長の実測値との差の平均値を算出した。次に、従属変数を身長、独立変数をdemi-spanとして単回帰分析を行った。【倫理的配慮】 研究実施に先立って、対象者に研究の主旨、方法、個人情報を厳重に管理することを説明し、同意が得られた場合にのみ計測を実施した。【結果】 11月5日時点で、男性75名(年齢70.1±8.9歳、身長165.1±7.0cm)、女性68名(年齢73.8±7.5歳、身長151.8±6.0cm)の計測を実施した。Nishiwakiらの推定式から算出した身長は、実際の身長と比較して平均で男性10.8±4.7cm、女性8.6±4.3cm高かった。単回帰分析の結果、身長の推定式は男性でy=1.38x+45.3 (r=0.766、P<0.01)、女性でy=1.28x+49.6 (r=0.699、P<0.01)であった。【考察】 本研究は、仰臥位でdemi-spanを計測した場合、先行研究で得られた推定式を適用すると、身長を過大評価してしまうことを明らかにした。本研究の計測結果に、Nishiwakiらの推定式を適用できなかった原因として、仰臥位と坐位で肩甲骨の内外転に差が生じ、demi-spanに変化を生じた事が考えられる。すなわち、仰臥位では坐位よりも肩甲骨は内転し、肩関節は軽度水平外転位となりやすい。そのため、仰臥位で計測すると坐位と比較してdemi-spanが長くなったと考えられる。また、先行研究で示された推定式の精度が不十分であったことも考えられる。本研究では仰臥位で計測したdemi-spanから身長を推定する式を求めたが、今後さらに対象者数を増やし、一般化可能性の高い推定式を示す必要があると思われる。【理学療法研究としての意義】 本研究は、肢位によってdemi-spanの推定式を使い分ける必要があることを示した。そして、過去の研究では示されてこなかった、仰臥位で計測したdemi-spanに適用する推定式を新たに作成した。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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