理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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転倒歩行の有無とジグザグ歩行の関係
菅沼 一男増田 紗嘉高田 治実江口 英範豊田 輝芹田 透
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キーワード: 転倒, 歩行, 予測
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p. Ab1323

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抄録
【はじめに、目的】 転倒は,高齢者の日常生活活動を低下させるのみでなく,医療費の増大などの問題を含んでいる.転倒予測について,様々な報告がなされているが方向転換を多く取り入れた報告は散見する程度である.屋内での転倒は,方向転換が要因であるとされることから,方向転換を多く含んだ転倒予測評価が必要である.また,簡便に評価を行うことができる評価指標であれば,理学療法士以外のスタッフが評価を行うことも可能である.本研究は3mジグザグ歩行,10m歩行,年齢が転倒経験の有無と関係があるのかについての検討することを目的とした.【方法】 対象は,屋外独歩が可能な65歳以上の高齢者50名とし,過去1年間の転倒経験の有無により転倒群25名(男性12名・女性13名)と非転倒群25名(男性11名・女性14名)に分類した.転倒群は,年齢73.2±5.9歳,身長153.7±8.0cm,体重57.4±10.2 kg,非転倒群は,年齢72.9±5.6歳,身長155.0±10.8 cm,体重56.1±9.4 kgであり両群の属性に差は認められなかった.なお,測定に影響を及ぼすと考えられる整形外科疾患ならびに中枢神経系疾患などを有する者は除外した.ジグザグ歩行距離は, 3mとしスタート地点とゴール地点に50cmのビニールテープを貼り目印とした.歩行路には,60cm間隔にペットボトルで作成したポール(以下,ポール)を4本設置した.測定は,スタートの合図とともにジグザグ歩行を開始し,ゴールラインを跨いだ時点までとした.また,測定時にポールを跨いだ場合は無効とし再度測定を行った.10m最大歩行速度の測定は,助走路を設け,計測地点を越えた接床からゴール地点を越え接床した時点までの時間を測定した.歩行条件はできるだけ速く歩ける速度とした.測定値はジグザグ歩行,10m歩行ともに,2回の測定値のうち最速値を小数点第1位で四捨五入した.各測定間は1分以上の間隔をあけジグザグ歩行と10m歩行の測定順はランダムとした.統計学的手法は,各検定に先立ち各変数が正規分布に従うかについてShapiro-Wilk検定を行った.その後,ジグザグ歩行,10m歩行,年齢の関連度をみるために相関係数を求め,転倒群,非転倒群の群間比較には対応のないt 検定を用いた.また,転倒の有無を従属変数とし,ジグザグ歩行時間,10m歩行時間,年齢を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った.変数の選択は,尤度比検定による変数増加法を用いた.統計解析は,PASW statistics 18(SPSS Japan)を使用し,すべての検定における有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に従い,本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し書面にて同意を得たうえで実施した.【結果】 ジグザグ歩行の測定値は,転倒群が12.6±2.5秒,非転倒群が8.7±2.1秒であり,10m歩行は,転倒群が8.9±1.8秒,非転倒群が7.7±1.9秒であった.各変数はShapiro-Wilk検定の結果,正規分布に従うことが確認された.そこで,Pearsonの積率相関係数を求めた.ジグザグ歩行と10m歩行(r=0.553)および10m歩行と年齢(r=0.520)は有意な相関を認めたが,ジグザグ歩行と年齢(r=0.225)は相関がみられなかった.また,対応のないt検定の結果,ジグザグ歩行,10m歩行ともに有意差が認められた.多重ロジスティック回帰分析において,転倒の有無に影響する因子としてジグザグ歩行が選択された(モデルχ2検定でp<0.01).ジグザグ歩行のオッズ比は,0.377(95%信頼区間0.218~0.652)であった.また,変数の有意性はジグザグ歩行がp<0.01であった.このモデルのHosmer-Lemeshow検定結果はp=497であり,予測値と実測値の判別的中率は82.0%であった.【考察】 過去1年間の転倒経験の有無に対して,ジグザグ歩行,10m歩行,年齢が影響するのかについて検討した.多重ロジスティック回帰分析においてジグザグ歩行が選択されたことから,転倒経験の有無はジグザグ歩行との関連が考えられた.オッズ比からジグザグ歩行時間が1秒増加することで転倒の危険が2.65倍になることが示唆された.また,Hosmer-Lemeshow検定結果から,このモデルは適合していると考えられ判別的中率が82%であることから転倒を予測する指標として用いることが期待できると考えた.本法のジグザグ歩行は,3mであり狭い空間でも測定が可能であり,ペットボトルで作成したポールを用いることで簡便で接触しても安全な測定方法であると考えた.しかし,バランス能力を要求されることから,今後は,安全性や評価の適応範囲などについての検討が必要であると考えた.【理学療法学研究としての意義】 ジグザグ歩行による転倒予測は,特別な機器を用いることもなく小スペースで行える.このことから,訪問リハビリテーションやデイサービスなど限られたスペースでも実施できることから有益な方法であると考えた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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