理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
転倒リスクの高い高齢者の静止立位時における身体動揺
─各体節の動揺に着目して─
大谷 拓哉竹内 弥彦三和 真人
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キーワード: 高齢者, 重心動揺, 転倒予測
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p. Ab1325

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抄録

【はじめに、目的】 静止立位時の身体動揺は基礎的な平衡機能を反映し,身体動揺の増大や動揺速度の増大が平衡機能の低下を示すと考えられている.高齢者における転倒頻発の誘因の一つに平衡機能の減退があげられ,身体動揺に着目した平衡機能の加齢変化に関する報告がなされているが,それらはいずれも身体の合成質量中心(center of mass; COM)もしくは足圧中心を指標としている.生体は剛体ではないため,姿勢制御時に身体の各体節の動きに差異が生じている可能性があり,より詳細な分析には各体節の動きの観察が必要である.特に高齢者では脊柱支持組織の加齢変化により,胸椎部を主体とした脊柱全体の後弯やその代償としての骨盤後傾といった姿勢のアライメントの変化を生じることが多く,高齢者に特徴的な姿勢制御に関する知見を得るためには,頭部や胸郭部,骨盤帯など体節別のCOM動揺を分析することが重要と考える.そこで本研究では,外乱刺激を加えた際のステッピング反応によって高齢者を転倒リスクの高い群と低い群に分類し,静止立位時の各体節のCOM動揺を比較検証することを目的とした.【方法】 対象は60歳以上の高齢者15名(男性8名,女性7名,平均年齢67.2±3.2歳(62-74歳))とした.Horakらが考案した「Push and Release Test」を用いて高齢者に対し後方への外乱刺激を加え,1回のステッピング動作によって姿勢を保持できた高齢者を1回ステップ群(n=7),複数回のステッピング動作によって姿勢を保持できた高齢者を複数回ステップ群(n=8)とした.静止立位姿勢のCOM計測には,光学式の三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D system)を用いた.剛体リンクモデルはHelen Hayes Hospital markers setを参照し,25個の赤外線反射マーカを被験者の体表に貼付した.被験者は裸足にて両足内側縁を15cm離した静止立位姿勢を25秒間保持し,初めの5秒間を除いた20秒間を解析対象とした.マーカの動きのサンプリング周波数は200Hzとした.動作解析ソフトVisual3D(C-Motion社製)を用いて,頭部,胸郭部,骨盤部の各体節についてセグメントモデルを作成した.解析項目として,静止立位20秒間における各体節のCOMの位置変化の実効値および速度,加速度の実効値を前後・左右方向別に算出した.1回ステップ群と複数回ステップ群との比較にはWelchのt検定を用いた.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した.全ての被験者には,ヘルシンキ宣言をもとに,研究内容,参加の利益・不利益,参加・中止の自由などを口頭および文書にて説明し,書面への署名にて同意を得た.【結果】 1回ステップ群と複数回ステップ群との比較において,頭部の前後方向の加速度(1回ステップ群:0.084±0.016 m/s2 ,複数回ステップ群:0.11±0.023 m/s2)と胸郭部の左右方向の加速度(1回ステップ群:0.044±0.011 m/s2,複数回ステップ群:0.06±0.013 m/s2)に関して有意差が認められた(それぞれp=0.024,0.026).他の変数については有意差が認められなかった.【考察】 Stepping strategyは補償的バランス反応と定義され,Mcilroy(J Gerontol 1996)は外乱を加えた際の高齢者のステッピング反応の特性として,一度目のステッピングが着地した後,さらに何度かのステッピングが出現することを報告している.さらにMaki(ISPGR 2001)は,着地後のステッピング出現が加齢や転倒リスクと関連していることを報告している.本研究では,複数回ステップ群において頭部の前後方向の加速度と体幹の左右方向の加速度が有意に大きく,複数回ステップ群は静止立位時の重心動揺性が大きいことが明らかとなった.COMの位置変化や速度には有意差が認められず,加速度にのみ有意差が認められたことから,複数回ステップ群ではCOM速度の増加と減少を頻回に繰り返す様式で立位姿勢を保持していると考えられる.転倒リスクの高い高齢者は静止立位時の頭部と胸郭部の動揺性が大きいことが示唆され,動的な動作のみでなく,静止立位時のこれらの要素にも着目した研究や介入を行っていくことが,転倒予防の観点から重要であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究によって,転倒リスクの高い高齢者は,静止立位時の頭部および体幹部の動揺性が大きいことが示唆された.本研究結果は,高齢者の転倒予防に向けて,動的な動作のみでなく,静止立位の特に頭部と体幹の動揺性に着目した研究や治療介入の必要性を示唆している.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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