抄録
【はじめに、目的】 現在,欧米を中心に動物に対し理学療法を行なう理学療法士(以下PT)がおり,本邦でも2007年に日本動物リハビリテーション研究会が設立され,2010年には日本動物理学療法研究会が立ち上げられ,動物に対する理学療法が注目され始めている.しかし本邦では動物理学療法を行なっているPTは少ないのが現状である.動物理学療法に関するアンケート調査として全国のPTと獣医師を対象とした動物理学療法への関心度の調査(浅利,2011)があるが,動物医療職が動物理学療法にPTを必要としているか調査した研究は見当たらない.そこで本研究の目的は動物理学療法へのPTの介入の将来性を明確にする一助とするため,獣医師および動物看護師を対象に動物理学療法へのPTのニーズを調査することであった.【方法】 対象は,平成23年3月に群馬県獣医師会のホームページ上に住所の記載のある動物病院192施設に勤務する獣医師,動物看護師とした.アンケートの実施方法は多肢選択と自由記載での回答形式のアンケートの実施用紙を作成し,郵送法にて実施した.質問内容は1)動物理学療法という言葉について,2)動物理学療法実施の必要性,3)動物理学療法の実施状況,4)未実施の理由,5)動物理学療法をPTに行なってもらいたいか,6)実施者,7)治療内容の計7項目とした.アンケート結果の回答を集計し,回答内容について分析,検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象候補者に対しては,本研究の目的や本研究への参加の同意及び同意撤回の自由,プライバシー保護の徹底について,書面にて説明し,書面に署名と押印による同意を得た上で本研究への対象者とした.【結果】 回答数は38施設,57名,有効回答数56名,回収率は19.8%であった.1)動物理学療法という言葉を知っているという回答は85.5%,2)動物理学療法実施の必要性があるかは94.6%,3)動物理学療法を実施している施設は66.1%,4)動物理学療法を実施していない理由は,専門の設備がないが22.2%,専門知識を持つ人がいないが19.4%,5)動物理学療法をPTに行なってもらいたいかでは,「はい」との回答が50.8%であった.行なってもらいたいと答えた理由は「理学療法の専門的な知識を有している」が34.5%と多い中,行ってもらいたくないと答えた理由としては,「動物への知識がない」が43.2%,「現状で十分」が31.8%との回答が多かった.また行ってもらいたいとの回答の中にも「動物に対して知識があれば」との意見や「最低でも解剖学は学んでいてほしい」との意見があった.【考察】 アンケート調査の結果,動物に対しての理学療法は必要であるという回答は95%であったのに対して,実際に動物理学療法を行なっている施設は65%であった.これは人材や設備の不足から,動物理学療法を行なう必要があるが,理学療法を実施することができず,理学療法に対しては前向きな考えを持ちながらも行うことができていない状態であると考えられた.獣医師,獣看護師はPTに動物理学療法を行なってもらいたいか否かはほぼ同じ割合であった.PTに行なってもらいたくない理由は,動物に対する知識がないという考えが多かった.行ってもらいたいとの回答の中にも,動物への知識が必要であるという意見が多く,動物への知識が必要という共通点が両者間で得られた.これはPTが動物に対して知識不足なことや動物での成果などが少ないため,信用性に欠ける部分が見られることがPTの動物医療への参入を難しくしていると考えられた.獣医師,動物看護師には理学療法の専門知識を活かした新しい領域が増えそうであるという考えがある一方で,動物に対しての知識や実績不足からPTが動物医療に関わることを敬遠する考えもあった.今後,PTが動物理学療法という分野でも活動の幅を広げていくためには,動物の基礎知識を学ぶ機会を取り入れる必要があると考えた.基礎知識を身につけた上で臨床での理学療法の効果の検討が不可欠である.現在PTで動物に治療を行なっている人は少ない.犬の股関節屈曲拘縮に対する二足歩行練習の効果に関する検討(浅利,2011)のように動物に対する知識を持つPTが実績を積み重ねていくことで,PTの動物への知識不足という不安要素が少なからず軽減することができ,PTが活動する場が広がっていくのではないだろうか.【理学療法学研究としての意義】 本研究において, PTの動物理学療法へのニーズについて,動物医療職からの回答を得ることができた.PTが動物の知識の獲得,動物理学療法での実績を残すことで,「PTが動物理学療法に関わっていくことに対する,動物医療職からの関心」が高まれば,PTが動物医療に参入する機会が多くなり,動物理学療法という新しい領域につながると考えられた.