理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
言語教示がメンタルローテーション課題時の脳活動に及ぼす影響
─EEGを用いて─
楠元 史渡久地 政志兒玉 隆之森岡 周
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p. Ac0398

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抄録

【はじめに、目的】 メンタルローテーション(以下MR)課題に関する研究は,1971年にShepard らによって報告された後、数多く報告されてきた。川道ら(1998)は文字のMR課題において脳磁図(以下MEG)を用いることで、上側頭領域・運動系の領域・上頭頂小葉の活動を観察した。手のMR課題時の脳活動においてもMEGが使用され、その場合は頭頂葉・運動前野の活動が観察されている(菊池 2008)。筆者ら(楠元 2011)は前回大会において、手のMR課題時における反応時間(以下RT)の違いによって、脳活動が異なることを脳波(以下EEG)によって明らかにした。一方、運動イメージ想起課題において言語教示を変えることで脳活動に違いがみられることも報告されている(藤本ら 2009)。そこで本研究は、MR課題を用いる際にRTの違いをもたらすような言語教示が課題時の脳活動に影響を及ぼすかをEEGによって明らかにすることを目的とした。【方法】 対象者は右利き健常大学生21名(男性10名、女性11名、年齢21.6±1.5歳)である。課題呈示には刺激呈示装置(島津製作所)を用い、1試行計48枚の手画像をランダムに呈示した。対象者は写真が呈示されると、課題1では「できる限り早く」、課題2では「できる限り早く正確に」、課題3では「できる限り正確に」、課題4では「頭の中で手を回すイメージをして」という言語教示のもと回答した。課題中の脳活動に関しては高機能デジタル脳波計ActiveTwoシステム(BioSemi社製)を用いて記録計測した。データ解析にはEMSE Suite プログラム(Source Signal Imaging)を使用した。0.1Hz-20Hzの帯域パスフィルターをかけ、80μVを超えたものはアーチファクトとして除去した。1. 回転操作が必要な画像、2. 回転操作が必要でない正立画像において、それぞれ画像提示後500msecの範囲で加算平均し、1. から2. を減算することで心的回転に必要な脳活動の波形を抽出した。その後、各課題において21人の波形を加算し、sLORETA解析ソフトを用いて脳内神経活動の発生源同定を行い、MRI画像にマッピングし、脳活動の時間的変化を課題間で比較した。反応時間に関しては4群間にて一元配置分散分析および多重比較試験を実施し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 課題施行前に研究内容について対象者が十分に理解するまで口頭で説明し、同意を得た。【結果】 課題1において他の3課題と比較してRTが有意に早く(p<0.05)、他の3群間には有意差は認められなかった。課題1では画像提示後100msec時に後頭葉の活動がみられ、それに続き160msecから270msecに時には右側頭葉、330msecから370msec時に前頭葉の活動の高まりを認めた。一方、課題2・3においては画像提示後100msec時に後頭葉の活動がみられた後、160msecから330msec時には両側の頭頂葉の活動が、370msec時においては前頭葉の活動が認められた。課題4においては後頭葉から両側の頭頂葉と活動の変化がみられた後、370msec時には運動前野・運動野・前頭葉の活動が認められた。【考察】 課題1の速さを求める課題では、視覚野に入った情報が腹側視覚路を通って側頭葉、そして前頭葉に伝達されていた。この結果は、反応時間の早い群では腹側経路にて手を「形態」として知覚し、情報処理がおこなわれているのではないかといった我々の昨年度の報告を支持する結果となった。一方、課題2・3・4では、視覚野から背側視覚路を通って頭頂葉、その後、前頭葉に情報伝達されており、これは身体のMR過程を表しているものと考えられた。その中でも課題4において運動イメージを想起させるような言語教示では、運動前野・運動野といった運動領域での強い活動がみられており、MR課題時と運動イメージ想起において脳活動領域が等価的であるという報告(Podzebenko 2002)を支持する結果になったと考えられる。これまでの臨床研究では,MR課題時においてRTの速さを要求するような実験パラダイムが用いられてきたが,本研究の結果よりMR課題の際において,運動学習に関与する運動関連領域(頭頂葉を含む)を適切に活性化させるためには,速さでなく正確性やイメージを求めるように言語教示を与えることが大切であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 理学療法において運動イメージやMR課題は、脳損傷後の機能回復や痛みの治療ツールとして有用である科学的根拠が数多く示されている。今回の結果は、その有用性を高めるためには、理学療法士の言語教示の質が重要であることを脳研究から明らかにした。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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