理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
ロボットスーツHALの継続実施を阻害する因子
島 俊也金澤 浩大岡 恒雄白川 泰山
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p. Ac0402

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抄録
【はじめに、目的】 ロボットスーツHAL(以下、HAL)は下肢に筋力低下などを有する対象の脚力、歩行機能をサポートする自立動作支援ロボットであり、装着下での運動療法の効果が報告されている。当院では、HAL装着下での歩行練習を中心とした運動療法を、これまでに延べ150以上の症例に実施し、歩行速度の向上、歩容の改善などの効果を認めたパーキンソン病患者や脳卒中片麻痺患者を経験し、報告を行ってきた(金澤ら.2010,島ら.2010)。1回のHAL装着下での歩行練習により、即時的に歩行能力の改善を認める例もあるが(島ら.2011)、そのような症例は、継続して実施することで歩行能力はさらに向上することが多い。このようにHAL装着下での運動療法は、単発ではなく継続実施することが重要と考えられるが、対象者の中にはそれが困難な症例も多い。今回はHALの継続実施を困難にする因子を調査したので報告する。【方法】 当院の外来にてHALを実施した患者19名(男性12名、女性7名)についてRetrospectiveに調査を行った。平均年齢(平均±SD)は63.1±16.0歳だった。調査項目は診断名、HAL初回装着時の罹病期間、HALを用いた運動療法の実施回数、初回装着時の移動補助具と歩行自立度、初回装着時の10m歩行時間、現在またはHAL最終装着時の10m歩行時間、HALを用いた運動療法の終了の理由の8項目とした。また、脳卒中片麻痺患者については下肢のBrunnstrom recovery stage(以下、BRS)を加えて調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号:MRH1122)。対象者には、研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 診断名は脳卒中片麻痺患者が11名、脊髄損傷が3名、進行性筋ジストロフィーが1名、進行性核上性麻痺が1名、多発性硬化症が1名、ポリオが1名、変形性膝関節症が1名であった。HAL初回装着時の罹病期間は平均75.4±77.4ヶ月であり、全例で発症後6ヶ月以上が経過していた。HALを用いた運動療法の実施回数は平均5.1±5.4回であり、1回のみの装着で終了したものは9名であった。初回装着時の移動補助具は、独歩が4名、T字杖が3名、四脚杖が3名、松葉杖が1名、四点支持歩行器が3名、車椅子が5名だった。歩行の自立度は自立レベルが8名、監視レベルが6名、中等度介助レベルが2名、全介助レベルが3名であった。初回装着時の10m歩行時間は測定が可能なものが9名、困難だったものが10名だった。測定できた9名の平均値は25.2±19.2秒であった。現在またはHAL最終装着時の10m歩行時間は10名が測定可能であり、その平均値は24.5±20.9秒であり、初回に測定を実施できなかった1名を除いた平均値は19.3±10.6秒と、5.9秒の改善を認めた。HALを用いた運動療法終了の理由については現在継続中の11名を除いた8名分を調査した。その結果、「筋電を導出できずHALのアシストが得られなかった」が2名、「装着後の疲労感が強かった」が2名、「HAL装着時に疼痛があった」が2名、「HALの規格が体型に合わず、装着が困難になった」が1名、「不明」が1名であった。脳卒中片麻痺患者11名の下肢BRSは6が3名、5が2名、4が2名、3が3名、2が1名であった。2回以上の継続実施が困難だったものは19名中9名であった。10m歩行時間を測定困難であった8名中、7名が継続実施が困難であった。歩行補助具については継続可能だった10名中8名が杖歩行を監視もしくは自立レベルで可能であったのに対し、実施が困難だった9名中、杖歩行が可能だったのは3名と少なかった。【考察】 調査の結果、47.4%がHALの継続実施が困難であった。その特徴としては、杖歩行が困難、歩行時の介助量が大きい、10m歩行時間の計測が困難などが挙げられた。HAL装着下での歩行練習を実施する際、それに慣れるまでに多少の動きにくさを訴える症例が多い。歩行が困難な症例では、HALのアシスト以上にHAL装着による「動きにくさ」を感じてしまい、継続した実施が困難となるのではないかと考えられる。以上のような事を解決できれば、HALを用いた運動療法を効果的に実施できるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 新しい治療法を実施する際、その適応と効果を示すことは重要であると考える。今後も症例を重ねて、適応症例の検討を継続していきたい。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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