理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
高齢者の移動能力と膝関節伸展最大発揮角速度および膝関節伸展筋力との関連性
新井 武志大渕 修一柴 喜崇大室 和也小島 基永
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p. Ae0089

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抄録
【はじめに、目的】 理学療法評価の中で筋力測定は頻繁に行われるが、等尺性収縮による静的な最大発揮筋力を測定する場合が多い。一方、静的な筋力発揮能力よりも、動的な筋出力、特に筋パワーが歩行や階段昇降などの身体パフォーマンスと強い相関関係を示すことが知られている。筋パワーの測定は、等速性筋力測定器(トルクマシン)など高価かつ簡便ではない測定機器が必要なため、臨床的に実施することは難しい。我々は本学術集会などにおいて、簡便に利用できるジャイロセンサーを用いた関節角速度の測定値が、筋パワーを外挿する指標になることを示してきた。本研究では、地域在住高齢者を対象に、筋パワーを外挿する膝関節伸展最大発揮角速度(以下膝伸展角速度)と等尺性膝関節伸展筋力(以下膝伸展筋力)の双方を測定し、どちらの測定値が移動能力との関係性が高いのかを回帰分析によって検証することを目的とした。【方法】 対象は地域在住高齢者であって、重篤な現病・既往の有無などの除外基準に該当しない105名(平均年齢75.1±5.2歳)であった。この対象者に、座位での膝伸展角速度および膝伸展筋力を測定した。膝伸展角速度の測定は下腿遠位部に2kgの重錘とジャイロセンサーを取り付け、下腿下垂位から膝関節最大伸展位まで最大努力で伸展させた際の最大角速度を測定した。膝伸展筋力は膝関節90度屈曲位での最大等尺性収縮時の筋力を徒手筋力測定器を用いて測定した。双方とも膝関節裂隙から測定器までの長さ(モーメントアーム)を測定結果に乗じることで補正をした。また、移動能力として、最大歩行速度(以下最大歩行)とTimed Up & Go (以下TUG)を測定した。解析は、単回帰分析ではPearsonの相関係数にて膝伸展角速度および膝伸展筋力と移動能力の相関関係を確認した。次いで、最大歩行およびTUGを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。説明変数は、膝伸展角速度、膝伸展筋力とし、年齢と性別を強制投入した。解析にはSPSS17.0を使用し有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究では、参加者に対し本研究の概要・目的を説明し、学術的利用を目的とした評価データの使用について対象者全員から書面にて同意の意思を確認した。また、研究方法は理学療法科学学会の倫理審査委員会の承認を得た。【結果】 すべての測定は、安全に実施することができた。膝伸展角速度、膝伸展筋力の双方とも移動能力と有意な相関関係を認めた。最大歩行との相関係数は、膝伸展角速度、膝伸展筋力でそれぞれr=0.593 (p<0.01)、r=0.433 (p<0.01)であった。TUGでは、それぞれ r=-0.422(p<0.01)、r=-0.223(p<0.01)であった。重回帰分析(ステップワイズ法)の結果では、モデル適合度を示す調整済みR2値は、最大歩行、TUGのモデルにおいて、それぞれ0.371、0.213であった。どちらのモデルでも膝伸展角速度が有意な説明変数として抽出されたが、膝伸展筋力は有意ではなかった。説明変数の寄与の大きさを示す膝伸展角速度の標準偏回帰係数は、最大歩行のモデルで0.408、TUGでは-0.409であった。【考察】 本研究の結果では、膝伸展角速度、膝伸展筋力の双方とも移動能力と有意な相関関係を認めたが、相関係数の絶対値は膝伸展角速度のほうが大きくなった。また、重回帰分析でも膝伸展角速度が有意な変数として抽出された。これらは、筋パワーの方が移動能力などとの関係が強いとした先行研究や、関節角速度が筋パワーを外挿するとしたと我々の研究結果と一致するものであると考えられる。ジャイロセンサーを使った関節角速度の測定は安全かつ簡便に測定できるため、静的な等尺性筋力の測定と同様、今後臨床で応用されていくことが期待される。【理学療法学研究としての意義】 理学療法評価における筋力評価では、徒手筋力テスト(MMT)などが行われているが、客観性に劣るという指摘がなされてきた。一方、客観的な評価としては、徒手筋力測定器による等尺性筋収縮力の測定が行われている。近年、移動能力などの身体パフォーマンスに関しては、等尺性筋力よりも動的な筋パワーのほうが強く関係することが示されており、評価だけでなく、トレーニングにおいても関節運動の角速度を考慮する必要性が指摘されている。今回用いたジャイロセンサーは小型で安全に関節運動の角速度を測定することができ、身体機能と強い相関関係を示した。ジャイロセンサーはトルクマシンに比較すると安価であるため、筋パワーを外挿する手段として妥当なものであると考えられた。今後の応用が期待される。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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