理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
加齢における歩行時下肢関節角度変化量が床反力に及ぼす影響
戸田 晴貴木藤 伸宏藤井 貴允石川 博隆佐々木 久登
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p. Ae0090

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抄録

【はじめに、目的】 床反力前後成分力積値の大きさは,歩行速度と関連する.高齢者は,加齢に伴い床反力前後成分力積値の大きさが減少し,それにより歩行速度が低下する.また,過去の報告は,高齢者は歩行中の下肢関節の関節角度が減少し,関節角度変化量が減少することを示唆している.しかしながら,床反力前後成分力積値の大きさに対する下肢関節の角度変化量の影響ついて検討した報告は,我々が渉猟した範囲においてなされていない.本研究の目的は,高齢者の歩行時の床反力前後成分の大きさに対して,股,膝,足関節のどの関節の角度変化量の影響が大きいかを明らかにすることであった.【方法】 被検者は,65歳以上で歩行補助具および介助なしで歩行可能な高齢者40名(男性20名,女性20名)と若年者40名(男性20名,女性20名)であった.歩行に影響を及ぼす疾患を有しているものはいなかった. 課題動作は定常歩行とし,被検者は最も歩きやすい歩行速度で歩行した.運動学データは,赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置 VICON MX (VICON Motion Systems 社製) を用いて計測した.同時に床反力は,床反力計 (AMTI社製) 8枚を用いて計測した.得られた関節角度から立脚期中の股,膝,足関節角度変化量を算出した.床反力前後成分の大きさは,体重で正規化し,後方成分と前方成分のそれぞれの力積値を算出した. 統計解析には,SPSS 17.0 J for Windows (エス・ピー・エス・エス社) を使用した.床反力後方成分と前方成分の力積値の大きさに対し,股,膝,足関節の関節角度変化量が与える影響を分析するために,Stepwise重回帰分析を行った. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究の実施に先立ち広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た.またすべての被検者に研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得たうえで計測を行った.【結果】 男性高齢者の床反力後方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節伸展角度変化量であり(adjusted R2 = 0.563),床反力前方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節伸展角度変化量であった(adjusted R2 = 0.343).女性高齢者の床反力後方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節立脚前期屈曲角度変化量と足関節背屈角度変化量であり(adjusted R2 = 0.640),床反力前方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節伸展角度変化量と膝関節立脚後期屈曲角度変化量であった(adjusted R2 = 0.483).男性若年者の床反力後方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節伸展角度変化量と足関節立脚初期底屈角度変化量であり(adjusted R2 = 0.551),床反力前方成分力積値に寄与する要因は,股関節伸展角度変化量と股関節屈曲角度変化量 であった(adjusted R2 = 0.779).女性若年者の床反力後方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節伸展角度変化量と足関節立脚初期底屈角度変化量 であり(adjusted R2 = 0.551),床反力前方成分力積値に影響を与える要因は,膝関節伸展角度変化量であった(adjusted R2 = 0.210).【考察】 本研究の結果,男性若年者は床反力前後成分力積値に対して,股関節,膝関節,そして足関節のすべての下肢関節が影響を与えていたのに対して,男性高齢者は膝関節のみが影響を与えており,膝関節伸展運動に依存した床反力前後成分の制御を行っていることが明らかとなった.これらのことから,男性若年者と男性高齢者では歩行時の衝撃吸収と推進力生成に異なる関節を用いていることが明らかとなり,男性は加齢に伴い歩行時の足関節と股関節の機能が低下することが示唆される.女性の若年者と高齢者は,床反力前後成分力積値に対して主に膝関節運動が影響を与えていることが明らかとなった.このことは,男性が加齢に伴い足関節,膝関節運動,股関節の組み合わせから膝関節運動の依存に移行するのに対して,女性は若い年代から膝関節運動に依存した床反力前後成分力積値の制御をおこなっていることが推測される.また女性は,加齢とともに歩行時の衝撃吸収を足関節底屈運動と膝関節伸展運動の組み合わせから,膝関節屈曲運動のみに依存することが明らかとなり,加齢に伴い足関節機能が低下することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】 本研究の意義は,加齢が歩行機能に及ぼす影響とその関節運動学的要因を示したことである.本研究の結果から,男性高齢者の歩行機能を維持向上するためには足関節と股関節の機能維持や改善に着目した運動療法の開発の必要性が示唆される.また,女性に対しては若い年代から股関節機能を向上させるための運動療法が必要であり,加齢変化に対しては足関節での衝撃吸収能力を維持向上させるための運動療法の開発の必要性が示唆される.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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