理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
高齢者のステップタスク時の反応エラーに対する運動学的検討
佐藤 啓壮黒木 薫齋木 しゅう子
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p. Ae0091

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抄録
【はじめに、目的】 高齢者の転倒予防を画策する際、考慮に入れなければならない指標の一つに反応時間がある。ちょっとした段差や足の引っかかりなど、若年者では回復可能な状況でも、高齢者では反応時間を含めた様々な要因によって転倒を回避する機能が低下している。これらの若年者との違いを比較する研究のうち、下肢のステッピングの反応時間(RT)を計測した研究は多く存在する。また最近では、ステップする足を規定せずランダムに行うchoice stepping RT(CSRT)も使用されて運動機能のみではなく、認知機能を含めた総合的な評価として用いる試みもされている。これまでの単純な反応時間の相違だけではなく、反応エラーとしての評価は易転倒予備群を早期にスクリーニングする手法として注目されている。神経心理系の分類では一度活性化した反応を抑制する能力、いわゆるdeletion functionは、特性情報に対しての抑制が加齢の影響を強く受けると言われ、若年者と高齢者間の神経心理学的検討材料となっている。我々は高齢者で静止立位時の足圧中心の変位周波数が高く、特に動作初期に著明であることを報告しているが、今回、素早い反応に対してdeletion functionを若年者と比較してこれを運動学的に検討したので報告する。【方法】 普段、定期的に運動をしている高齢者12名(平均年齢67.6歳、男性7名、女性5名)と、一般大学生14名(平均年齢20.0歳、男性7名、女性7名)を対象とした。計測方法は動作解析室にて、3次元動作解析装置(Cortex、MotionAnalysis社製)を用いて、床面に設置した4枚の床反力計(928IC、Kistler社製)の上に立位をとらせた。そして、あらかじめ前方に用意した3色発光可能なLED光刺激装置(DKH社製)を発光させ、光と同時に前方、または後方へ早く移動するタスクを指示した。なお、青色提示が「右足から」、緑色提示が「左足から」、さらに赤色提示が「動かない」ように指示し、十分に練習を行った後にランダムに行った。光刺激装置とすべての機器の信号はパーソナルコンピューターに収録して同期させた。反応時間は右足を基準とし、右足が床反力計から離地した時間と規定した。また、anticipatory postural adjustment (APA)の比較では、赤色提示(動かない)時から3秒間の仮想重心点(COG)を算出し重心加速度を身体の変位指標として、また、床反力から得られた足圧中心(COP)変位量を足部の変位指標として比較した。統計解析はJMP Pro Ver.9(SAS Institute Japan)を用い、studentのt検定を危険率5%で行った。【説明と同意】 全被験者に研究に関する説明を行い、同意を得られた者に対して行った。なお、本研究は東北福祉大学研究倫理委員会の承認下で行われた。(承認番号:RS1002151)【結果】 反応時間は先行研究の通り、高齢者は0.84(0.03)sec(標準誤差)、若年者は0.70(0.03)secとなり、P=0.0007で差が生じた。COGの加速度はX、Y、Z軸方向共に差が生じなかったが、COPではX軸(側方)最大変位量が高齢者7.50(1.01)cm、若年者で4.10(0.81)cmでP=0.005、Y軸(前後)最大変位量は高齢者で26.62(2.83)cm、若年者では19.94(2.26)cmでP=0.04となり、それぞれ差が生じた。【考察】 反応時間計測は従来、多くの先行研究が存在する。しかし、「動く」つもりが「動くな」という反対のコマンドに対しての、いわゆる反応エラーが起きた際の運動学的検討は、近年になって行われるようになってきている。今回の結果では、高齢者において反応時間も延長し、かつ、反応エラー時の足圧中心の変位も増加している事から、「選択」と「抑制」が同時に影響を受けていることを示唆しているが、COGに関しては影響を受けず、床との接地面である足部がCOG変位の抑制を行っている事が判った。【理学療法学研究としての意義】 反応時間などの機械的な身体評価のみではなく、転倒するイベントがあった際に、高齢者自身が用いる避転倒手法の選択や、決定、実行などの心理的側面も含めた総合的な評価手法として、APAに対する抑制反応を運動学的に検討することは、多角的な視野から高齢者の運動機能維持を行う基礎研究となる。この研究は平成20~24年度戦略的研究基盤形成支援事業の助成を受けて行われた。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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