理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
頚髄不全損傷者の歩行周期に関する特徴について
上田 絵美片岡 正教安田 孝志島 雅人村田 臣徳岡原 聡谷村 広大片岡 愛美赤井 友美奥田 邦晴
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p. Ba0287

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抄録
【はじめに】 頚髄不全損傷者は歩行獲得の可能性が高いとされているが,その回復過程は症例により異なり,臨床像も多彩であるため,歩行練習の方法に難渋することも少なくない。しかしながら,頚髄不全損傷者を対象とした詳細な歩行分析の報告は少なく,十分な科学的根拠は得られていない。そこで本研究では,歩行周期各相の相対的時間比率に着目し頚髄不全損傷者の歩行パターンを検討したので報告する。【方法】 対象はASIA impairment scale Grade D,WISCI IIのレベル20(無杖,無装具で独歩が10m以上可能)の不全頚髄損傷者10名(平均年齢49.1±16.3歳,受傷後経過年数3.47±2.4年)とした。歩行解析はOXFORD社製,光学式3次元動作解析装置VICON MXを用いて行った。約8mの歩行路のほぼ中央に2つの床反力計を設置し,数回歩行練習を行ったのち,床反力計上を歩行補助具を一切使用せずに快適速度で歩行させた。測定項目は,時間因子として歩行速度,ケーデンス,立脚期率,両脚支持期率とし,距離因子として歩幅,歩隔,一歩行周期における重心の側方移動距離を算出した。なお,両脚支持期率は、一歩行周期における荷重応答期と遊脚前期の割合の和とした。また,歩行周期の遊脚期における股関節および膝関節の屈曲・伸展,足関節の底屈・背屈の角度変位も算出した。統計処理にはspearman’s の順位相関係数を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には本研究の主旨を口頭および書面で十分に説明し,同意を得た上で計測を行った。なお,研究計画については倫理審査委員会の承認を得た。【結果】 対象のASIA motor scoreの平均は85.6±9.7であった。時間因子は平均歩行速度0.64±0.42m/s,ケーデンス81.2±28.2step/minであり低値を示していた。歩行周期における立脚期率の平均は69.2±9.8%であり,そのうちの両脚支持期率は39.4±20.5%と高値を示していた。距離因子は,歩幅41.4±17.2cm,歩隔23.4±3.0cm,重心側方移動距離は9.1±3.1cmであった。遊脚期における下肢関節角度変位は股関節26.8±9.6°膝関節23.9±13.6°,足関節8.9±5.5°であった。各因子間の相関は,歩行スピードと立脚率(p<0.05)及び両脚支持期率(p<0.01)との間に負の相関がみられた。また、遊脚期の膝関節の角度変位と重心の側方移動距離の間に負の相関が認められ(p<0.05)、重心の側方移動距離と両脚支持期率の間に正の相関がみられた。(p<0.05)【考察】 今回の研究においても,頚髄不全損傷者の歩行の特徴である歩幅減少,歩隔増大,歩行スピード低下などがみとめられた。さらに,歩行周期において立脚期率が高く,特に両脚支持期率の延長が特徴的であった。遊脚期に痙性によって下肢関節運動の低下が認められクリアランスが低下している症例では、下肢の振り出しにくさを代償するために重心を支持側に大きく移動させており(重心側方移動距離の増大)、それに伴う両脚支持期率の延長および歩行スピード低下が認められた。また,矢状方向において一側下肢から反対側下肢へのスムーズな重心の前方移動が行われず,両脚支持期率の延長に影響を与えていることがあきらかとなった。従来の理学療法プログラムでは、頚髄不全損傷者の歩行能力改善には立脚側への荷重負荷による下肢支持性向上および単脚支持期率の増加を目的としたものが多かったが、今回の研究から両脚支持期率の減少を目的とする、すなわち一側下肢から反対側下肢への素早い体重移動を促し、遊脚へのスムーズな移行を可能とするような歩行練習の重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 頚髄不全損傷者の歩行動作についての詳細な研究はまだ十分であるとは言えず,これらを詳細に分析し歩行動作能力向上するために必要な要因を明らかにしていくことが,今後の不全頚髄損傷者のリハビリテーションにおいて,早期の動作獲得および社会参加拡大の可能性を向上させ得ると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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