理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
シングルケーススタディによる脊髄不全麻痺者に対するロボットスーツHALを用いた歩行練習効果
古関 一則水上 昌文吉川 憲一佐野 歩浅川 育世菅谷 公美子吉川 芙美子前沢 孝之海藤 正陽齋藤 由香岩本 浩二田上 未来大瀬 寛高居村 茂幸
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p. Ba0288

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抄録
【はじめに、目的】 脊髄不全損傷者に対する歩行練習の効果には様々な報告があるが,十分なエビデンスが示されているものはなく,更なる効果の検証や練習プロトコルの改良が求められている.ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は筋活動電位,足底荷重分布,関節の角度情報を基に,股・膝関節のアクチュエータを駆動してトルクをアシストする装着型の動作支援機器であるが,最近は運動機能障害者に対する歩行練習機器としての可能性を示唆する報告が出始めている.本研究の目的は,慢性期脊髄損傷不全麻痺者に対し,HALを用いた継続的歩行練習による歩行能力改善効果を,シングルケースデザインを用いて検証することである.尚,本研究は財団法人茨城県科学技術振興財団による生活支援ロボット研究開発推進基金により実施されている研究の一部である.【方法】 対象は受傷後13年の脊髄損傷(Th12不全対麻痺)30代男性.ASIA key muscleによる残存高位L2,AISの段階Cであり,下肢筋力はMMTで股屈曲4+/4,膝伸展4+/4,以下0である.歩行は両ロフストランドクラッチ,プラスチック型短下肢装具を使用しての二点歩行が可能であり,両膝を伸展ロックしながらの歩容が特徴的であった.日常生活の移動には車いすを用いていた.研究デザインはABA型シングルケースデザインを用いた.介入は基礎水準期(A1期)および操作撤回期(A2期)はHAL非装着,介入期(B期)はHAL装着下での歩行練習を,各期共週3回,6週間実施した.歩行練習にはトレッドミルを用い,快適速度にて連続歩行を上限30分として実施した.練習中に心拍数140以上,Borg14以上,疼痛,眩暈,疲労の訴え等が見られた際は3分間の休憩を設けた.中断時に総歩行時間が20分未満の場合は練習を再開し,総歩行時間が30分に達した時点で練習終了とした.休憩後も理学療法中止基準に基づく身体所見がみられる場合は終了とした.歩行能力評価として,各週の最終日に10m最大歩行速度,歩行率を測定した.更に,A1,B,A2各期最終日の歩行練習中の動画を矢状面から撮影し, Frame-DIAS2(DKH社製)を用いて7歩行周期分の足底接地時の膝屈曲角度を計測した.また介入期間中,歩行状況や日常生活動作の変化について聞き取りを行った.分析は各期の歩行能力の推移を,最小二乗法加速減線と二標準偏差法(2SD法)を用いて分析した.また練習中の膝屈曲角度の推移を,一要因反復測定分散分析により検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学倫理委員会の承認を得,対象者は公募とし,研究の説明の後に書面にて同意を得て実施した.【結果】 10m最大歩行速度の最小二乗法加速減線はA1期y=0.0001x+0.93m/s,B期y=-0.0003x+0.90m/s,A2期y=0.0021x+0.95m/sとなり,A1期からB期で有意な減少,B期からA2期で有意な増加を認めた(p<0.05).また,2SD法ではA1期0.93±0.07m/s,B期0.89±0.04m/s,A2期1.00±0.07m/sとなり,B期とA2期に有意差を認めた(p<0.05).歩行率の最小二乗法加速減線はA1期y=0.0738x+85.4歩/min,B期y=-0.0073x+86.0歩/min,A2期y=0.2568x+87.0歩/minとなり,A1期からB,A2期で有意な減少,B期からA2期で有意な増加を認めた.また, 2SD法ではA1期87.4±3.3歩/min,B期85.8±4.5歩/min,A2期92.7±6.9歩/minとなり,B期とA2期に有意差を認めた.足底接地時の膝屈曲角度は,A1期右2.0±1.4°,左9.5±3.8°で,B期右22.4±8.8°,左24.6±3.3°,A2期右19.2°±5.0°,左17.1±5.5°であり,A1期に比してB期で有意に高値を示した(p<0.05).また,練習中の対象者のコメントとして,B期では痙性が生じなくなった,右足に体重がかかるようになった,などが聞かれた.【考察】 今回の結果,歩行速度,歩行率はA1期に微増,B期に微減,A2期に著明な増加が認められた.A1期に歩行速度・歩行率に改善が見られたのは,本研究以前は日常的に歩行する機会がなかったため,通常のトレッドミル歩行練習でも練習の効果が発揮されたものと考える.B期に歩行能力が微減した点については,B期がHAL装着下での練習であり,それにより歩行パターンが変化している最中であること,HAL非装着での歩行機会はほとんどなく,HAL装着下での練習で獲得された新しい歩容に十分習熟していなかったことが原因として考えられる.その後,A2期では歩行能力に著明な改善が認められた.これはB期における歩容変化がHAL非装着での歩行練習に反映され,動作が習熟したものと推察した.以上より,受傷後13年が経過した慢性期脊髄不全麻痺者も,HALを用いた歩行練習を行った後に, HAL非装着での歩行練習を継続して実施することで,歩行速度,歩行率が改善する事が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究は生活支援機器としてのロボットスーツHAL(福祉用)が,理学療法機器としても有効となる可能性を示唆できたことに意義がある.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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