理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
急性期病院の脳出血患者における退院先に関連する因子の検討
─自宅退院群と回復期群における検討─
八木 麻衣子川口 朋子遠藤 弘司渡邉 陽介吉岡 了寺尾 詩子高田 達郎植田 敏浩
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キーワード: 急性期, 脳出血, 起居動作
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p. Ba0289

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抄録

【はじめに、目的】 脳卒中医療体制の構築に伴う医療機関の機能分化により、急性期病院においては、急性期の内科的・外科的治療や早期リハビリテーション(リハ)を経ても短期的な機能回復が困難と予測される症例について、速やかな回復期病院への転院が望まれる。しかし、脳卒中急性期病院における自宅や回復期病院などの退院先の選別は、医師やリハスタッフの経験的な判断に委ねられているのが現状である。脳出血を含めた脳卒中患者ついて、機能的な予後に関する検討は多数報告されているが、自宅退院及び転院についての予測を検討した報告は散見されるのみである。在院日数の短縮が求められる急性期病院において、入院後早期から客観的な指標を用いて退院先の検討を行うことは、速やかな方針決定のためにも非常に重要であると考えられる。よって本報告は、脳出血患者において、発症後早期から評価測定が可能である指標を用い、回復期病院への転院に関連する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は、平成21年1月1日から平成23年3月30日までに、当院脳卒中センターに脳出血発症後3日以内に入院し、リハ指示があった連続174症例のうち、退院先が自宅(自宅群,n=26)もしくは回復期病院(回復期群,n=99)であった125例とした。研究デザインは後ろ向き観察研究とし、(1)患者背景に関する項目:年齢、性別、入院前modified Rankin Scale、同居者の有無、世帯構成人数、既往歴、(2)疾患に関する項目:最重症時National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)、出血部位、外科的治療の有無、 (3)入院中の経過に関する項目:リハ開始までの日数、車椅子座位獲得までの日数、在院日数、合併症の有無、(4)理学療法開始時身体機能:嚥下障害の有無、高次脳機能障害の有無、初回車椅子乗車時Ability for Basic Movement ScaleII(ABMSII)、を診療録より後方視的に調査した。統計学的分析は、自宅群と回復期群の2群間での比較を、カイ二乗検定およびMann-WhitenyのU検定を用い、単変量での解析において有意な差を認めた項目に関して、尤度比による変数増加法を用いた多重ロジスティック回帰分析を行った。また、選択された項目について、receiver operating characteristic(ROC)曲線での分析を行い、感度、特異度およびカットオフ値を算出した。統計ソフトはSPSS17.0Jを用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本報告は、当院生命倫理委員会の承認(承認番号第1799号)を受け、個人情報の取り扱いには十分に留意し検討を行った。【結果】 自宅群(男性16名、女性10名、年齢67.0±13.5歳)と回復期群(男性66名、女性33名、年齢64.4±12.7歳)の2群間の比較において、NIHSS(5.3±6.2vs.12.5±7.1,p<0.01)、車椅子乗車までの日数(1.5±5.6vs.3.3±5.7日,p<0.01)、嚥下障害の割合(11.5vs.62.6%,p<0.01)、高次脳機能障害の割合(42.3vs.82.8%,p<0.01)、ABMSII(25.1±5.3vs.15.0±4.5,p<0.01)において有意に差が認められた。多重ロジスティック回帰分析においては、高次脳機能障害の有無(オッズ比3.43、95%信頼区間:1.04-11.25)、ABMSII(オッズ比0.74、95%信頼区間:0.65-0.83)が退院先と有意に関連していた。また、ROC曲線下面積はABMSIIにて0.90(95%信頼区間:0.83-0.98)となり、退院先を鑑別するカットオフ値は23.5点(感度80.8%、特異度92.9%)であった。【考察】 急性期病院における退院先に関連する因子を後方視的に検討した。結果より、自宅群と比較して回復期群では、機能低下、能力低下が認められたが、同居者の有無や世帯構成人数などの患者背景には差が認められなかった。多重ロジスティック回帰分析により抽出された因子は、高次脳機能障害の有無とABMSIIであった。退院先を判別するABMSIIのカットオフ値23.5点を下回る症例は、高次脳機能障害の有無とも合わせて、早期より回復期病院への転院を考慮する必要性があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 急性期脳卒中の退院先に関連する因子について、一定の知見を得られた研究であったと考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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