抄録
【はじめに、目的】 脳卒中患者が歩行能力を再獲得するためには,歩行効率向上を目的とした歩行トレーニングを早期から行い,連続歩行距離を延長していくことが重要となる.加えて,運動麻痺や痙縮などで歩行が困難な患者には,装具療法も併用されている.麻痺側下肢を短下肢装具で固定することで,尖足緩和や体重支持量改善,歩行速度増大などの効果が期待できる.しかし,歩行能力がもっとも改善する時期である回復期において,装具療法が脳卒中患者の歩行効率にどのような影響を与えるかについては十分な検討がなされていない.本研究では、回復期の脳卒中片麻痺患者に対する装具療法が歩行効率に及ぼす効果を検討した.【方法】 東京湾岸リハビリテーション病院に入院中で,同意の得られた回復期脳卒中片麻痺患者10名(男性5名,女性5名,平均年齢59.6±14.3歳)を対象とした.発症からの期間は,17.9±4.3週であった.麻痺側は左4名,右6名,下肢Brunnstrom-stageは,stageIIが1名,stageIIIが3名,stageIVが4名,stageVが2名であった.課題は,裸足および日常用いている短下肢装具着用での歩行とした.歩行距離は前後3mを含む歩行路10m(合計16m),歩行速度は患者の至適速度とした.評価項目は,ストップウォッチにて計測した歩行時間と歩数,小型無線加速度計(WAA-006,ワイヤレステクノロジー社)にて計測した加速度とした.加速度計は,第3腰椎棘突起部に伸縮ベルトにて固定し,サンプリング周波数60 Hzでコンピュータ内に記録した.得られた加速度データは,10~20歩行周期分を加算平均し,時間で1回積分後に速度を求め,さらに2回積分し重心の変位を算出した.歩行周期は前後加速度ピーク値に基づき特定した. 解析項目は,時間距離因子(速度,歩行率,重複歩幅)と歩行効率の指標である%Recovery(以下;%R)とした.時間距離因子は歩行時間と歩数から算出した.また%Rの算出については,まず重心最低位置を基準にした上下変位と速度から位置エネルギーと運動エネルギーを算出し,それらの値の和から全力学的エネルギーを算出した.さらに,位置エネルギーの増加量(Wp:重心上昇に必要な仕事量),運動エネルギーの増加量(Wk:重心加速に必要な仕事量),全力学的エネルギーの増加量(Wt:重心上昇や加速のため主に筋に要求される仕事量)を用いて%R(%R={1-Wt/(Wp+Wk)}×100)を算出した.統計解析は,全てのデータをShapiro-wilk検定を用いて正規性を確認した後に,対応のあるt検定を用いた.また5%未満の危険率を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会の承認を得て,研究趣旨を十分に説明し同意を得た.【結果】 歩行速度は裸足で25.5±11.0 m/min,短下肢装具で35.5±16.1 m/minであった.歩行率は,裸足で73.8±16.3 steps/min,短下肢装具で84.7±20.2 steps/minであった.重複歩幅は,裸足で0.7±0.1m,短下肢装具で0.8±0.2 mであった.統計解析の結果,すべての項目で有意差を認めた.%Rは,裸足で48.4±16.2%,短下肢装具で57.0±11.6%と有意な改善を認めた.運動エネルギーの増加量は,裸足で17.5±7.4J,短下肢装具で22.1±9.4Jと両群間に有意差を認めた.また,運動エネルギーにおける裸足と短下肢装具の差は,第1ピークを歩行周期40~60%で,第2ピークを0~20%で示した.一方で,位置エネルギーの増加量では,有意差を認めなかった.【考察】 短下肢装具を装着することにより,時間距離因子および歩行効率において有意な向上を認めた.この結果は,回復期脳卒中片麻痺患者の歩行効率向上に装具療法が有効であることを示唆するものと考えられる.また短下肢装具装着による歩行効率の改善とともに,運動エネルギー増加量も有意な改善を認めた.さらに,運動エネルギーは立脚後期および初期に増加を示した.この結果は,短下肢装具装着による足部安定に伴う麻痺側下肢の支持性改善と,立脚後期および初期での前方への加速改善が関与していると考えられる.さらに,これらの改善によって時間距離因子が向上したと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 回復期脳卒中片麻痺患者において,歩行効率の向上による連続歩行距離の増加は,歩行能力の再獲得にとって重要な観点である.今回の研究では,歩行効率の改善に装具療法が有用であることを示した.