理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
火災により低酸素脳症を呈した一症例
杉本 彩村田 雄二正木 信也
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p. Ba0958

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抄録
【はじめに、目的】 火災により低酸素脳症を呈した女児を担当する機会を得た。症例は被災後2年余りで著しく回復している。担当小児神経科医は脳波は異常波ではあるが、半年毎に1歳程度の回復を示していると述べている。そこで今回、経過を報告するとともに回復過程について考察し発表する。【方法】 症例は6歳の女児。X年12月(当時4歳)火災にて一酸化炭素中毒、低酸素脳症を呈し、A病院に搬送され、人工呼吸器管理となった。抜管後、肺炎を合併。翌年1月、肺炎治療および低酸素脳症治療目的で当院に転院、理学療法(以下PT)開始となった。初期評価時、上肢屈曲・下肢伸展パターン。頸部・体幹は不安定で伸展優位。視覚も光が見える程度で、発語も認められなかった。排泄は失禁。食事は経管栄養であった。発症後3ヶ月、定頸、寝返り獲得。吸引や経管栄養手技を両親が習得後、自宅退院。外来でのPT継続となった。発症後6ヶ月、言葉の理解あり簡単な指示に応じれるようになった。発症後12ヶ月、長座位、端座位獲得。排尿報告、介助下での経口摂取が可能となり、追視も可能となった。発症後15ヶ月、起き上がり、胡座獲得、3語文での発語可能となった。発症後18ヶ月、自我が現れ、会話可能で自己主張ができるようになった。そして発症後23ヶ月現在、簡単な会話は可能で、SRC歩行器での歩行実施中である。右上下肢に軽度の片麻痺を残存、体幹は低緊張。MRI所見では両側の被殻、尾状核、左頭頂葉、後頭葉に異常所見が認められた。上記の経過を日本版デンバー式発達スクリーニング検査を用いて「個人・社会」「微細運動・適応」「言語」「粗大運動」の項目ついて評価し、回復過程について考察する。【倫理的配慮、説明と同意】 患者家族には個人情報の保護について十分に説明した上で同意を得た。【結果】 PT開始時は、異常肢位が多く音に反応できるのみで、評価不可能であった。(以下、発症後3ヶ月→6ヶ月→12ヶ月→15ヶ月→18ヶ月の順に表記する。)「個人・社会」は1ヶ月→2ヶ月→4ヶ月→6ヶ月→10ヶ月。「微細運動・適応」は評価不可→評価不可→3ヶ月→6ヶ月→10ヶ月。「言語」は1ヶ月→22ヶ月→23ヶ月→2歳→2歳半。「粗大運動」は4ヶ月→5ヶ月→6ヶ月→8ヶ月→8ヶ月。そして発症後23ヶ月現在、「個人・社会」は12ヶ月、「微細運動・適応」は14ヶ月、「言語」は3歳、「粗大運動」は8ヶ月という評価結果となった。【考察】 本症例は火災により後天的に低酸素脳症を呈した女児である。PT開始時は異常肢位、筋緊張異常が著明であり、生活全般に介助を要していた。しかし被災から2年近くが経過し、運動、知能面など全てにおいて再び発達の経過をたどっている。小児の脳神経は発達途上であり、シナプス数に関しては、1~5、6歳がピークと言われている。シナプスが過剰にある時期に機能訓練や学習など、外からの刺激を与えることにより、大脳の刺激回路が大きく変えられる、すなわち可塑性がある。症例は4歳で被災し低酸素脳症となった。4歳までは健常に発達し、またシナプスがピークと言われる年齢であった。早期からのPT介入により刺激回路に影響を与え、発達・回復したことが考えられる。また症例には姉妹がおり、早期に自宅退院に至ったことで姉妹からも刺激が与えられ、発達・回復に大きく影響したのではないかと考えられる。しかし粗大運動はその他の発達と比較して停滞している。MRI所見にて両側の被殻、尾状核、左頭頂葉、後頭葉に異常所見が認められていた。それにより運動麻痺を呈し、運動面が他の発達より遅延しているのではないかと考える。また、初期段階では視覚障害も呈していた。視覚野のシナプスは1歳半をピークに減少していくとの報告があるが、現在視覚障害は改善しており、視覚に関しても脳の可塑性により回復したのではないかと考えられる。現在も発達の過程をたどっており、年齢的にも可塑性による回復が見込まれ、さらなる発達・回復が期待される。【理学療法学研究としての意義】 症例を担当し、介入初期からは予測できないほどの発達・回復を認め、現在も日々成長していることに驚かされる。今後は専門施設への移行も視野に入れ検討中である。様々な文献にて脳障害後の脳の可塑性について述べられているが、本症例は小児ということもあり、脳の可塑性による機能回復が認められた症例と思われる。早期に、また継続的なPT介入の重要性を再認識させられた。しかし現在のリハビリテーションは算定日数や単位の制限があり、当院のように障害者リハビリの施設基準に満たない病院でのリハビリ継続は困難である。さらには専門施設でも一定の時期がくると、介入頻度が大幅に減少するのも事実である。今後のリハビリテーションのあり方についても考えさせられる症例であった。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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