抄録
【はじめに】 重症心身障害者(以下、重症者)にとって車椅子とは、単なる移動手段にとどまらず、姿勢保持、活動や学習の場など様々な役割を持ち生活に欠かすことができないものである。今回、1台の車椅子で座位と膝立ち位を保持できる2WAY車椅子を作製し、症例の日常生活に意義のある変化を認めたので報告する。【方法】 症例は当センターに入所中の50歳女性、脳性麻痺(痙性を伴うアテトーゼ型、四肢麻痺)、GMFCSレベルV、改訂大島分類A2である。座位保持装置付リクライニング式手押し型車椅子の支給制度を用いて、座位と膝立ち位の2つの姿勢を保持することができる2WAY車椅子を作製した(作製期間H22年1月~H23年4月)。作製前後に理学療法士による評価と病棟職員へのアンケートを実施し、日常生活の変化を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 2WAY車椅子作製の目的や方法について家族に説明して同意を得た。また、本学術集会での演題発表について島田療育センター倫理委員会の承認と、書面にて家族の同意を得た。【結果】 (1)以前の車椅子での生活 車椅子乗車直後より不快を示し、体幹右側屈と反り返り、下肢の伸展を強め後頭部をバックレストに押し付けていた。さらに奇声を発し興奮が高まると、頭部がバックレストから落ちるほど姿勢が崩れ、10分以上の乗車が困難であった。車椅子乗車に非常に拒否が強く、日常生活は殆ど病棟内での背臥位で過ごし、病棟外での活動や外出を楽しむ機会が非常に乏しかった。また、やむを得ず床上背臥位で摂食しており、体幹と頭部が不安定なため過開口となり、口唇閉鎖の介助が行いにくく誤嚥のリスクが高かった。(2)症例の能力 理学療法の中では腹臥位や膝立ち位を好み、反り返りや奇声などの不快表現は殆ど見られずリラックスすることが多かった。この姿勢では頭部挙上や自発的に左上肢を動かすことも可能であり、目の前の玩具を倒したり他者と握手したりすることができた。また、SRCウォーカーに乗車すると頭部挙上して周囲を見渡し、30分以上センター内の移動を楽しむことができた。(3)新規作製した2WAY車椅子 座位姿勢の保持には、症例の動きをある程度許容する緩やかなモールド型座位保持装置を用いた。これにより多少姿勢が崩れても、もとの姿勢に戻ってくることができるようになり、過剰な体幹の反り返りや下肢の伸展、不快を示す奇声は減少した。比較的リラックスして車椅子に乗車することができるようになったため、車椅子上での摂食が可能となった。体幹部分の緩やかなモールドとヘッドレストにより頭部が安定したため、口唇閉鎖の介助が行いやすくなり呑気も軽減した。膝立ち位では専用クッションとテーブルを装着し、前胸部、殿部、膝で圧を分散して体重負荷するように車椅子のリクライニング角度を設定した。この姿勢では頭部挙上して周囲を見渡し、発声により自発的に他者に働きかけるようになった。また、テーブルに玩具を置くと自発的な左上肢の動きで玩具を倒したり、介助者が手を添えてペンを把持するとなぐり書きをしたりすることができ、症例が楽しめる活動が増加した。(4)病棟職員によるアンケート 病棟職員42名を対象に行ったアンケート(回収率100%)では、乗車時間10分→連続2~3時間(座位・膝立ち位)、活動時の不快表現90%→50%(座位)、活動時の姿勢の崩れ85%→46%(座位)、左上肢の自発的な動き10%→65%(膝立ち位)という結果が得られ(以前使用していた車椅子→新規作製した2WAY車椅子の順に記載)、乗車時間の延長、不快表現の減少、姿勢保持や左上肢機能の向上が認められた。また、病棟職員からは、「車椅子乗車でのレクリエーションや病棟外での活動、外出に参加できるようになった。」「リラックスして乗っていることができ車椅子が好きになったようだ。」とのコメントが寄せられた。【考察】 2WAY車椅子の作製により、病棟外活動や症例の能力を生活の中で発揮する機会の増加、不快表現の減少など症例の日常生活に意義のある変化を認めた。活動の機会や活動範囲の増加はQOL向上につながるものと考える。重症者にとって車椅子は単なる移動手段ではなく、日常生活の活動と参加を促すツールである。重症者一人ひとりに必要な機能を持つ車椅子を作製し、日常生活の改善やQOL向上を図ることが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 1台で座位と膝立ち位の2つの姿勢を保持することができる車椅子の報告は過去にあまりない。また、理学療法士が車椅子作製に関わることにより、症例の機能や能力を活かすことのできる車椅子を作製することができると考える。