理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 口述
理学療法開始時における急性期脳卒中患者の発症30日目の歩行予後予測
─座位バランスに着目して─
堀 順樋口 謙次木山 厚保木本 崇弘三小田 健洋中山 恭秀安保 雅博
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p. Ba0975

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抄録

【目的】 脳卒中の理学療法は、発症早期よりリスク管理下での積極的な離床と機能改善を図ることが求められる。急性期病院は在院日数が限られ、脳卒中発症早期からの予後予測、特に歩行予後は不可欠であり、適切な目標設定をすることが必要である。脳卒中の歩行予後予測に関しては、これまで発症10日目の座位保持能力や下肢運動麻痺が影響因子であった報告や回復期での報告がみられるが、急性期脳卒中患者の理学療法開始評価(以下、初回評価)での報告は少ない。また、初回評価は主科から座位までは可能といった安静度の制限やベッドサイドから開始となることがあり、評価が限られる場合が多い。そこで今回、急性期脳卒中患者の発症30日目(以下、30日目)の歩行予後予測を目的とし、初回に測定可能な評価、特に座位バランスに着目し、30日目の歩行自立可否の影響因子を検討した。【方法】 対象は、2010年4月から2011年8月まで本大学附属4病院に入院した初発の脳卒中者225名中、初回評価が発症10日以内で、それまでに歩行が自立に至らず、発症より30日以上在院した59名である。選択基準は下肢運動麻痺が認められ、発症前の歩行は自立、除外基準はクモ膜下出血、両麻痺及び高次脳機能障害を有するものとした。内訳は、男性31名、女性28名、右麻痺31名、左麻痺28名、年齢67.8±13.1歳、脳梗塞43名、脳出血16名で、発症から初回評価までの期間は5.54±1.12日だった。初回評価項目は、意識障害(Glasgow Coma Scale合計点)、下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下、BRS:1~6)、起居動作及び座位保持(0介助、1自立)、前下方へのリーチ(端坐位にて非麻痺側上肢で足部を触る:0測定不可~4両側下肢接触可能)、片側骨盤挙上(端坐位で片側ずつ骨盤を挙上する:0測定不可~3両側離殿3秒以上)とした。30日目の歩行自立度はFunctional Ambulation Categoriesを参考に7段階(1不能~7屋外自立)で分類し、歩行に監視や介助が必要な者を歩行介助群、監視が不要で室内歩行自立以上を歩行自立群とした。各項目は本大学4病院で運用中の脳卒中評価表より後方視的に調査した。解析は初回評価の意識障害、BRS、前下方へのリーチ、片側骨盤挙上と30日目の歩行自立度について、Spearman順位相関を行い、項目間の関連性を検討した。また30日目の歩行自立群、介助群に分類し、起居動作、座位保持に対し、30日目の歩行自立可否の2群間においてχ2条検定にて検討した。次に30日目の歩行自立可否の要因を分析するため、目的変数を30日目の歩行自立可否、説明変数を意識障害、BRS、起居動作、座位保持、前下方へのリーチ、片側骨盤挙上とし、変数増加法による多重ロジスティック回帰分析(SPSSver.16)で検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究は、本大学倫理委員会の承認を得て、「臨床研究に関する倫理指針」に遵守して実施した。【結果】 30日目の歩行自立度と各項目間の相関係数は、意識障害0.677、BRS0.710、前下方へのリーチ0.620、片側骨盤挙上0.709といずれも有意な相関関係が認められた。30日目の歩行自立群は19名、歩行介助群は40名であった。30日目の歩行自立可否に対し、起居動作、座位保持において2群間で有意差が認められた。多重ロジスティック回帰分析の結果、BRS(オッズ比2.40、95%信頼区間1.24-4.66)及び片側骨盤挙上(オッズ比1.85、95%信頼区間1.04-3.28)に有意性が認められた。判別的中率は82.5%だった。【考察】 30日目の歩行自立度と初回評価の各項目は、有意な相関関係が認められ、30日目の歩行自立可否は、起居動作、座位保持に有意差が認められた。そのなかで30日目の歩行自立可否は、初回評価時のBRSと片側骨盤挙上が影響因子として抽出された。先行研究では発症10日目の座位保持能力、下肢運動麻痺が、30日目の歩行可否に影響するとしている。しかし、先行研究は監視を含めて歩行可能としたのに対し、本研究は監視が不要なものを歩行自立とした。座位保持能力より難易度の高い座位バランスが関連すると仮説を立て本研究を実施した結果、片側骨盤挙上が30日目の歩行自立に影響したと考えられた。以上より、下肢麻痺の程度を示すBRSや座位バランスを示す片側骨盤挙上の初回評価が30日目の歩行予後に有用であると示唆された。【理学療法学研究としての意義】 急性期脳卒中患者の初回評価において安静度等の諸条件を含め、30日目の歩行予後を検討した。初回評価の下肢運動麻痺、片側骨盤挙上が、30日目の歩行自立可否を予測可能で、初回評価から理学療法の目標を設定する上で有益な指標となった。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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