理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
急性期病院における脊髄障害患者の排便コントロール
─排便管理能力の向上につながった3症例─
蔵品 利江添田 健仁室井 宏育
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p. Bb0516

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抄録

【はじめに、目的】 医学的管理や基本動作獲得への介入が主体となる急性期病院では、脊髄障害患者の排泄機能障害、ことに薬物での管理がしやすい排便障害においては、自己管理という長期目標を見据えたトレーニングを行いにくく報告も少ない。そこで、急性期病院入院中から排便コントロールに関わり良好な経過を辿った脊髄障害3症例を報告し、その有効性について述べる。【方法】 症例A:20才代女性。海綿状血管腫、Th7以下完全麻痺。American Spinal Injury Association impairment scale(以下AIS):A 起居動作全介助。便意なく刺激性下剤使用し失禁。症例B:70才代女性。多発性硬化症(以下MS)再発、Th6以下不全麻痺。AIS:B 入院前は車椅子と四脚歩行器併用にて日常生活自立していたが、増悪し起居動作半介助。便意なく刺激性下剤使用し失禁。症例C:40才代女性。脊髄動静脈瘻、Th12以下MMT右0左2~3の不全麻痺。AIS:C 8病日、脊髄血腫摘出術施行。起居移乗は半介助、便意なく便もれありオムツ装用。これら3症例に対し、基本動作獲得に向けた理学療法(以下PT)に加え、早期より排便の自己管理向上を目的としたアプローチも実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本発表についてはご本人及びご家族に説明し了承を得ている。【結果】 症例A:2病日PT開始。5病日より車椅子移乗開始したが、MS疑いにてステロイドパルスや血漿交換療法を行うなど積極的介入は困難。15病日頃に数回、便失禁で周囲を汚したことをきっかけに、車椅子移乗や面会を断るなどネガティブな行動が増えたため、心理面に配慮した排便方法を検討。モチベーション向上も期待し、便坐上での坐位保持及び下衣脱着トレーニングを開始。40病日より、医師. 看護師.による排便周期の確認や薬剤調整、排便姿勢での直腸内診を開始。排便予定日は坐薬挿入時間に合わせ、PTが実際の排泄場面でのトレーニングを反復、緩下剤と坐薬併用での2日間隔の自然排便を経験した。55病日、復職を希望し回復期病院転院。症例B:3病日PT開始。8病日、早期の在宅復帰を希望され、医学的管理が最小限となるよう薬剤や排泄方法を検討。看護師が排便周期の確認や坐薬、肛門刺激による誘発を試みながら、PTではポータブルトイレ自立に向けた動作練習。10病日、代償便意で排便し、その後は排便予定日の坐薬挿入時間に合わせてPTが介入。実際の排泄場面でのアプローチを繰り返し、緩下剤と坐薬併用にて2日おきの排便コントロールが確立した。側臥位での坐薬挿入や後方へのプッシュアップ移乗も自立。排便時間も考慮した在宅サービス調整後、24病日で在宅復帰。症例C:3病日PT開始。しっかりとした排便なく10病日が経過し、便を出し切ることを目的に刺激性下剤を内服して翌日に排便。その日を境に刺激性下剤は中止し、排泄に同行できるようPT介入時間も調整。ベッド上起居動作は自立したが移乗に介助を要したため、看護師にも介助方法を指導し協力依頼。1日5回、自己導尿毎のトイレ移乗を反復し、緩下剤のみで1日1~2回の排便コントロールが確立した。48病日、T 字杖歩行にて回復期病院転院。【考察】 排便が意図したタイミングで出来るか否かは、脊髄障害患者の具体的な生活イメージ構築に不可欠な要素である。遅くとも平均3~4週と言われる脊髄ショック期が過ぎれば排便トレーニングは可能となるはずだが、知識不足や管理上の問題から急性期病院においてはQOLの視点をもった排便管理を行いにくいのが実状である。今回の3症例はPTの関わりをきっかけに排便をコントロールするという視点をもち、手段や時間に合わせた他職種との協調的な介入により、早期から排便管理の自立に向けた足がかりを作ることが可能であった。いずれの症例も「便失禁」の時期には、人前での失禁や便臭に対する不安や羞恥心から活動範囲は狭く、医療から解放された社会生活を具体的目標として持つことが出来なかった。しかし、一度でもトイレで排便できると「排便をコントロールした」という達成体験がモチベーションを高め、ベッドから離れての日常生活はもちろん、社会復帰にまで視野を広げた目標を症例自らがイメージするようになった。目標が明確化することで主体性も高まり、残存機能を日常生活に活かそうと自らが工夫するなどの行動変容をも起こすことができた。【理学療法学研究としての意義】 限られた施設でしか排便トレーニングが行われないことにより、排便管理は自立しにくく、脊髄障害患者のコミュニティーの中で模索せざるを得ない症例も多い。今回の報告により急性期病院においても排便管理を視野に入れたアプローチは有効であるという意識付けにつながればと思う。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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