理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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脳卒中患者のバランス学習に対する自己運動観察効果の検証
笠原 伸幸冷水 誠川崎 歩米田 文博中薗 良太
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p. Bb0519

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抄録
【はじめに】 近年、他者の運動を観察することで運動学習が促進することが報告され、運動観察治療として脳卒中患者の上肢運動機能を改善させることが報告されている。しかしながら、バランス学習に関しては、健常成人を対象とした運動観察効果が報告されているが、脳卒中患者を対象とした報告は見受けられない。一方で、バランス学習のような全身的な運動については、スポーツ分野を中心に、自己の運動観察によるフィードバック効果が報告されている。従って、効果的なバランス学習は、運動観察として他者の運動を観察するのではなく自己の運動観察によるフィードバックの方が効果的である可能性が考えられる。そこで本研究の目的は、脳卒中患者を対象とし、運動観察がバランス学習に及ぼす影響として、他者または自己の運動観察条件の違いによる効果について検証した。【方法】 対象は当院入院中の脳卒中患者のうち10m以上歩行可能な10名(男性7名、女性3名、平均年齢66.3±8.2歳、平均罹患期間4.5±0.9ヶ月)とし、対象者をランダム表に基づき無作為に自己観察群、他者観察群の2群に分けた。除外基準は重度の認知症や高次脳機能障害を有するものとした。2群ともに通常の理学療法に付け加え、バランス課題と運動観察学習を実施した。課題は側方へ不安定なバランスボード(ディジョックボード・プラス 酒井医療社製)の上での立位とし、できるだけボードを水平に維持するよう指示した。立位肢位は各対象者の肩幅を足幅とし、視線は3m先の目標物とした。課題の施行時間は20秒間とし、各施行間には1分間の端坐位での休憩をはさんだ。施行回数は1日に3回とし、頻度は3日/週とし3週間実施した。運動観察学習について、自己観察群は各課題間に直前に自己が行ったパフォーマンスを撮影したビデオ映像を観察し、課題と運動観察を繰り返した。他者観察群は各課題間に他者が課題を行っているビデオ映像を観察し、課題と運動観察を繰り返した。ビデオ撮影および観察にはiPad2(apple社製)を使用することにより、簡便さおよび観察に必要な画面の大きさを確保した。測定項目はディジョックボード・プラスに内蔵された加速度計によって計測される左右安定指数および左右角度変動域とした。左右安定指数は、課題実施中にバランスボードが水平位からに動いた角度を表し、左右角度変動域は課題実施中にバランスボードが傾いた範囲を表している。統計学的分析は、3週間の介入前後および群について反復測定二元配置分散分析を用い、多重比較にはbonferroni法を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 対象者には口頭にて研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】 左右安定指数に関して、介入前後において主効果が認められた(p<0.01)が、群における主効果(p=0.11)および交互作用(p=0.07)は認められなかった。多重比較の結果、自己観察群のみに有意な差が認められた(p<0.01)が、他者観察群では有意な差は認められなかった。左右角度変動域に関して、介入前後において主効果が認められた(p<0.05)が、群における主効果(p=0.08)および交互作用(p=0.37)は認められなかった。多重比較の結果、両群ともに有意差は認められなかった。【考察】 今回の結果では、バランス学習において自己観察群のみに学習効果が認められた。このことは、自己の運動観察によるフィードバック付与によって、自己の運動経験とのずれを明確に認識することができ、次の施行に対して修正した新たな自己イメージを形成することができたことによるものと考えられる。これに対し、他者観察群では、他者の運動観察では自己の経験と観察した運動とのずれを、次の施行に向けた自己イメージ修正に結びつけることができず、効果的な学習にならなかったと考えられる。しかしながら、本研究では対象者数が少ないこと、また運動を観察しないコントロール群を設けることができていないため、今後さらなる検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から脳卒中患者において、さまざまな動作獲得の基盤となるバランス能力の向上に対する訓練の一つとして、ビデオを用いた自己運動観察学習が有効である可能性を見いだすことができた。特に今回用いた機器は特殊でなく、臨床上有用なバランス学習における介入手段への発展において重要な意義があると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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