理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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脳卒中片麻痺患者における車いす駆動速度に影響を及ぼす要因
大田尾 浩村田 伸八谷 瑞紀中尾 瞳水草 宗大溝上 昭宏金井 秀作梅井 凡子小野 武也
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p. Bb0522

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抄録
【はじめに、目的】 脳卒中患者の約40%(約60万人)は歩行を獲得できずに退院することが知られている。また,たとえ歩行を獲得したとしても,脳卒中片麻痺患者の歩行能力は,発症からの時間経過とともに低下しやすい。つまり,脳卒中片麻痺患者には常に移動能力の低下を引き起こす危険が伴っており,移動能力の代替手段としての車いすの必要性は高い。しかし,脳卒中患者の約40%が車いすが必要な状態にあるにも関わらず,車いす駆動に関する報告は散見する程度である。そのため,これまで脳卒中片麻痺患者の車いす駆動に必要な能力について,十分に明らかにされていない。また,車いす駆動の獲得に向けた指導方法も不明確なままである。本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者における車いす駆動速度に影響を及ぼす要因を明らかにすることである。【方法】 対象は,入院中もしくは通院中の脳卒中片麻痺患者58名(平均年齢66±16歳)とした。発症から平均20.5±39ヵ月経過していた。対象の条件は,車いすを使用し,自力で座位保持が可能なこととした。歩行練習中で車いすを併用している者も対象に含めた。測定項目は,車いす駆動速度,Br.stage,握力,腹筋筋力,大腿四頭筋筋力,腸腰筋筋力,足趾把持力,下肢荷重力,バランス能力,半側空間無視,麻痺側足底の触覚とした。車いす駆動速度は,10mの駆動速度をストップウォッチで計測した。腹筋筋力,大腿四頭筋筋力,腸腰筋筋力は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて測定し,左右それぞれの測定値を体重で除した(%)。足趾把持力は,足指筋力測定器にて非麻痺側の測定値を体重で除した(%)。下肢荷重力は,座位にて体重計を用いて計測し,非麻痺側の測定値を体重で除した(%)。バランス能力は,座位および立位でのFunctional Reach Test(FRT)にて測定し,身長で除した(%)。半側空間無視は,線分二等分検査をmm単位で評価した。足底の触覚は,非麻痺側を10点として麻痺側はどの程度にあるのか評価した。統計処理は,車いす駆動速度と各測定値の関連をSpearmanの順位相関係数による単変量解析にて説明変数を絞り込んだ。次に,車いす駆動速度に影響を及ぼす因子を抽出するために,目的変数を車いす駆動速度,説明変数は単変量解析で有意であった項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析にて分析した。さらに,交絡因子と考えられる年齢,性別,麻痺側,BMIを強制投入した重回帰分析にて,車いす駆動速度に影響する要因を抽出した。統計解析にはPASW Statistics 18.0(SPSS Japan)を用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 研究の趣旨と内容について被検者本人もしくはその家族に文書と口頭で十分に説明し,理解を得た上で協力を求めた。また,研究の参加は自由意思であること,参加しない場合に不利益がないことを説明した。本研究は調査を行った施設の施設長および現場長の承認を事前に得てから実施した。【結果】 車いす駆動速度と各測定項目との関連を分析した結果から,重回帰分析の目的変数を車いす駆動速度とし,説明変数は下肢Br.stage,握力,腹筋筋力,大腿四頭筋筋力,腸腰筋筋力,下肢荷重力,足趾把持力,座位FRT,立位FRT,線分二等分線検査および足底の触覚とした。その結果,選択された項目は,立位FRT(p<0.01),腹筋筋力(p<0.01),非麻痺側腸腰筋筋力(p<0.01)であった。さらに,交絡因子の影響を調整した重回帰分析の結果,最終的に選択されたのは腹筋筋力(p<0.01),立位FRT(p<0.01)であった。ANOVAの結果は有意(p<0.001)で,適合度は良好(R2=0.708)であった。Durbin-Watson比(1.843)とVIF(1.213~2.745)に問題はなく,実測値に対し予測値が±3SDを越えるような外れ値も存在しなかった。【考察】 車いす駆動速度に影響を及ぼす要因は,腹筋筋力と立位FRTであることが明らかとなった。車いす駆動可能群は不可能群と比較して,腹筋筋力やバランス能力が良好であるとの報告からも,本研究の結果は妥当であると考えられる。脳卒中片麻痺患者の車いす駆動速度を向上するには,腹筋筋力と立位バランス能力へのアプローチが重要である可能性が示唆された。今後は,車いす駆動能力の縦断研究および介入による効果の検証が必要である。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,脳卒中片麻痺患者における車いす駆動の指導において一助となるであろう。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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