抄録
【はじめに、目的】 当院では脳卒中患者の予後予測・ゴール設定を行う一つの指標として、Functional Independence Measure(以下FIM)を使用している。またNational Institutes of Health Stroke Scale(以下NIHSS)も脳卒中の重症度評価スケールのひとつとして、医師や看護師、リハビリテーションスタッフ等の多職種間において使用されている。こうした中で、同居人のいない独居患者のゴール設定はしばしば難渋することがある。わずかな機能・能力低下でも在宅復帰が困難となることがあり、早期から転帰先を決定するのは容易なことではない。そこで、本研究の目的は当院入院前に独居であった脳卒中患者が、当院から直接、自宅復帰可能となるために必要な当院における因子の検討をFIM得点、NIHSS得点を中心に検討することとした。【方法】 対象は平成22年11月~平成23年10月に当院入院となった脳卒中患者のうち、入院前環境が独居かつ入退院時のFIM評価、NIHSS評価が可能であった82名(男性51名、女性31名)とした。対象疾患は脳梗塞66名、脳出血16名であった。調査は、医療カルテを使用した。調査項目は性別、年齢、転帰先、在院日数、入院時運動FIM点数(以下入運FIM)・退院時運動FIM点数(以下退運FIM)、入院時FIM点数(以下入認FIM)・退院時認知FIM点数(以下退認FIM)、入院時合計FIM点数(以下入合FIM)・退院時合計FIM点数(以下退合FIM)、入院時NIHSS(以下入NIHSS)・退院時NIHSS(以下退NIHSS)を後方視的に調査した。統計処理は、転帰先が自宅か否かで自宅群と非自宅群に分け、各調査項目を対応のあるt検定を用いた。また尤度比による変数増加法を用いたロジスティック回帰分析を使用し、従属変数を転帰先とし、独立変数を年齢、在院日数、退運FIM、退認FIM、退合FIM、入NIHSS、退NIHSSとした。SPSS for Windows(version18)を用い、各検定ともに有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 当院にて研究(本研究を含む)を行なう際の個人情報の取り扱いについては十分配慮すること、研究により得られたデータを目的以外に使用しないことなどを定めた院内コンプライアンスを順守して行った。【結果】 自宅群は49名(男性30名、女性19名、平均年齢71.7±10.8歳)であり、在院日数は22.0±17.4日、入運FIM 75.1±20.0点、入認FIM 29.3±7.1点、入合FIM 104.6±25.0点、入NIHSS 3.1±4.5点、退運FIM 85.4±15.0点、退認FIM 30.1±7.0点、退合FIM 115.5±20.9点、退NIHSS 2.1±4.5点であった。非自宅群は33名(男性21名、女性12名、平均年齢74.3±12.2歳)であり、在院日数34.6±16.1日、入運FIM 35.4±22.0点、入認FIM 21.9±15.4点、入合FIM 55.7±28.3点、入NIHSS 8.8±8.1点、退運FIM 50.0±26.1点、退認FIM 22.8±9.7点、退合FIM 74.3±33.9点、退NIHSS 7.0±6.3点であった。自宅群と非自宅群の比較では、年齢を除いた全ての項目で自宅群が有意に良値を示した(p<0.01)。転帰先を従属変数としたロジスティック回帰分析では「在院日数(odds=1.05、95%信頼区間1.009~1.091、p<0.01)」、「退運FIM(odds=1.14、95%信頼区間1.033~1.254、p<0.01)」、「退NIHSS(odds=1.50、95%信頼区間1.108~2.030、p<0.01)」が有意に選択され、この3要因による判別的中率は86.6%であった。【考察】 当院における自宅群と非自宅群を検討した結果、在宅日数は自宅群が有意に少なく、FIM得点、NIHSS得点においても自宅群が有意に良値を示した。また、ロジスティック回帰分析では在院日数と退運FIM得点、退NIHSS得点の影響を強く受けることが示唆された。前年の当学会で発表した結果では、独居患者について退運FIM得点が転帰先を方向づけることが示唆されたが、今回退NIHSS得点もこれに加味される結果となった。今後は、在院日数の短縮と運動FIM得点の向上、NIHSS得点の軽減に努め、この調査から得られたデータを生かせるようにしていきたい。【理学療法学研究としての意義】 臨床においてADLを評価するFIM 、脳卒中の重症度評価を行うNIHSSの使用頻度は高い。今回、この二つの評価スケールを用いて調査した結果、運動FIM得点、NIHSS得点が転帰先を方向づけることを示唆した点において臨床的意義が高いと思われる。