抄録
【はじめに、目的】 近年、重複歩距離や歩行速度などの時間空間因子の変動と転倒との関係が注目されている。当センターでは、10秒毎の歩数を計測して求める「歩行率変動」を考案し、歩行自立度と関連があることを報告した。今回は、片麻痺患者と健常者を対象に加速度センサーを用いて評価を行い、その再現性について検討を行った。また、片麻痺患者と健常者を比較し、歩行率変動の特徴についても検討した。【方法】 対象者は3分以上歩行可能な片麻痺患者35名(男性25名、女性10名、平均年齢65.4歳)と健常者24名(男性10名、女性14名、平均年齢28.7歳)である。測定項目は、3分間自由歩行中の歩行速度と歩行率変動とした。加速度センサーはつま先装着型であり、片麻痺患者は非麻痺側、健常者は右側の足背部に加速度センサーを固定し、測定を行った。加速度センサーから得られた1歩行周期毎の歩行率の平均値、標準偏差から歩行率変動を算出した[歩行率変動(%)=(歩行率の平均値/歩行率の標準偏差)×100]。再現性の検討は、3分間の測定を2回行い、それぞれの歩行率変動から級内相関係数を求めた。また、対象者を片麻痺患者の歩行自立群と歩行非自立群及び健常者の3群に分け、歩行速度と歩行率変動について検討した。3群の比較にはKruskal-Wallis検定、各群の対比較にはScheffe法を用いて検討を行った。さらに、歩行率変動と歩行速度の関係を散布図に示し、歩行率変動の特徴についても分析した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には口頭で研究の目的や内容、方法などを十分に説明したうえで、研究参加の了承を得た。【結果】 級内相関係数は健常者で0.781、片麻痺患者で0.874、対象者全体では0.898であった。歩行速度の平均値は、歩行非自立群が15.5±9.6m/min、歩行自立群が54.2±21.8m/min、健常者が81±10.6m/minであり、各群に有意差を認めた(p<0.01)。歩行率変動は、歩行非自立群が20.3±13.0%、歩行自立群が4.0±1.6%、健常者が1.9±0.4%であり、歩行非自立群とその他の群は有意差を認めた(p<0.01)が、歩行自立群と健常者には差を認めなかった。歩行速度と歩行率変動の関係では、歩行速度が40m/min以上のものは全て歩行自立しており、歩行速度が遅くても自立しているものは、歩行率変動が低値を示した。 【考察】 加速度センサーを用いた歩行率変動の測定は、級内相関係数において高い再現性を認めたことから信頼性のある指標と考える。歩行速度は3群間に有意な差を認めたが、歩行率変動では歩行自立群と健常者に差を認めなかった。片麻痺患者は健常者より歩行速度が遅い傾向があるものの、片麻痺患者の中でも歩行自立者は健常者と類似した歩行率変動を示しており、一定のリズムで歩行が可能であった。歩行速度が遅くても歩行が自立しているものは歩行率変動が低値であった結果から、歩行速度が遅い場合の歩行自立度判定に、歩行率変動が有効であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 歩行の安定性を評価する指標として、今まで数多く報告されている。しかし臨床場面で歩行自立度を判定する際に用いることのできる指標は少ない。今回用いた歩行率変動は、歩行周期の変動を示したものであり、変動係数が低い場合、一定のリズムで歩行が可能であると言え、歩行の安定性を表す指標とも考えられる。歩行率変動は歩行自立度の判定に有効な指標と考えており、このような指標を一般的にしていくために今回の研究は必要であると考える。また臨床場面における適切な歩行自立度判定のために、今後も継続して研究していく必要があると思われる。