抄録
【はじめに、目的】 脳卒中患者における早期離床の効果は先行研究により示されており、脳卒中治療ガイドライン2009においても、発症後早期から座位、立位を含む積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められている。また、出江ら(2001)は、早期座位はADLの退院時到達レベルを犠牲にせずに入院期間を短縮すると報告している。当院脳神経外科でも、担当医師の指示のもとに安静度が決定され、可及的速やかな離床の取り組みを行っているが、離床の進め方は各リハビリテーションスタッフの判断に委ねられていることが多く、各スタッフの経験年数や認識の違いなどにより、理学療法や離床開始時期にばらつきがみられるという現状があった。そこで当院では、標準化された適用基準のもと理学療法プログラムが系統的に計画され施行されることを目的に、フローチャート、ステップアップ方式を用いた急性期理学療法標準プログラム(以下標準プログラム)を作成し、H22年10月より運用している。この標準プログラムは、急性期での到達目標を30分以上の連続車椅子座位の獲得とし、担当医からの安静度指示(ベッド上、ベッドアップ可能、制限なし)、意識レベル(Japan Coma Scale:以下JCS)、端座位時間、車椅子乗車時間をアウトカムとしたフローチャートを用いて状況に応じたプログラムを提示するものである。今回、脳卒中症例に対して、標準プログラム運用前の臨床データと比較することで、標準プログラムの有効性を検討することを目的とした。【方法】 対象は2009年4月から2011年8月の期間に当院脳神経外科病棟に入院しリハビリ介入した脳卒中患者222名のうち、211名とした(急性期到達目標に未到達のまま死亡、退院、転棟した11名は除外した)。情報収集は後方視的に診療録等から行い、測定項目は年齢、性別、病型(脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血・その他)、初期介入時のJCS、在籍日数(理学療法介入日から車椅子に30分以上バイタルの変動なく乗車可能となった日までの日数)とした。理学療法介入は、Andersonの基準(土肥変法)に準じてリスク管理を行い、また個々の患者の状態を反映する為、医師の指示を最優先した。分析は、対象を標準プログラム運用前群(111名)と運用後群(100名)の2群に分け、Shapiro-Wilk検定にて正規性検討を行った後、各項目における2群比較を行った。正規性を示さなかったパラメトリックデータ(年齢、在籍日数)と、JCSに対してはMann-WhitneyのU検定を行い、性別、病型に対してはχ2検定を行った。統計学的処理はSPSSver16.0を使用し、有意水準はいずれも5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 後方視的研究となるため、個人情報の取り扱いに十分に留意した。また、ヘルシンキ宣言に則った当院の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 2群比較の結果、在籍日数(前群中央値12.0日、後群中央値5.5日)において、運用前後で有意差を認めた(p<0.01)。年齢(前群中央値70.0歳、後群中央値72.0歳)、性別(前群:男性50名、女性61名、後群:男性58名、女性42名)、病型(前群:脳梗塞28名、脳出血54名、クモ膜下出血21名、その他8名、後群:脳梗塞41名、脳出血40名、クモ膜下出血12名、その他7名)、JCS(前群:1桁71名、2桁32名、3桁8名、後群:1桁66名、2桁26名、3桁8名)では有意差を認めなかった(p>0.05)。【考察】 標準プログラムの運用前後を比較した結果から、運用後にて離床にいたるまでの期間の短縮を図れたことが示唆された。寺尾ら(2011)は、脳梗塞離床プロトコール導入により早期離床が可能となったことを報告しており、当院標準プログラムを用いた本研究においても類似した結果を示した。標準プログラムの運用によって、脳卒中症例に対する離床開始時期の提示および確認につながり、早期に離床をすすめることが可能となったと考える。また、運用する上では、プログラムの実施の有無、非実施の理由等を所定の用紙に記録していた。実施の記録をすることで、第三者を含めた離床状況や遅延因子の確認が行いやすくなり、各スタッフの早期離床の意識も高まったのではないかと考える。今回標準プログラムの有効性は示すことができたと考えるが、今後は、離床に対する阻害因子や、スタッフ間での差異、重症度別での差異などからフローチャートやプログラムの妥当性を検討し、プログラムの標準化および質の向上につなげていくことが課題であると考える。【理学療法学研究としての意義】 標準プログラムの早期離床に対しての有効性が示されたことは、対象者への効果的な治療介入を実現し、在院日数の短縮やQOLの向上に寄与すると考えられる。