理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
プラスティック短下肢装具を装着した脳卒中片麻痺患者の靴のアンケート調査
─患者が重要視している項目の優先順位について─
植松 寿志山下 輝昭逆井 孝之山本 純一郎築山 裕子新藤 恵一郎
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p. Bb0765

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抄録

【はじめに、目的】 脳卒中発症患者は年間約35万人といわれ,その中でプラスティック短下肢装具(以下P-AFO)を処方される患者は多い.そのほとんどがP-AFOに適した靴が必要となり,装具作成とともに購入している.P-AFOに履く靴は歩行能力や歩容,ADLの自立度にも影響しうるもので慎重に処方されるべきものと考える.当院での靴の処方は理学療法士(以下PT)に任されており,処方時の留意点や患者のニーズを知る必要性を感じている.しかし,過去にこのような患者に対してアンケートを示す報告は少ない.また,多くの病院や施設ではP-AFOの処方にはPTが深く介入しているにも関わらず,靴に関しては義肢装具士に任されていたり,既存の少ない種類から処方されているようである.PTが靴の処方の重要性を理解し,今後靴の処方にも深く関わっていくきっかけになる事が,本研究の大きな目的の一つである.そこで前回は,屋外歩行レベル(屋外を歩く)(以下屋外)の患者を対象に「PTと患者の靴に対する考え方の違いを明らかにする事」を目的に報告した.今回は屋内歩行レベル(屋内や施設のみ歩く)(以下屋内)の患者を対象に追加調査を行い,屋内と屋外の結果を比較したところ統計的な差が認められなかった.そこで今回は全体の傾向をみる事とし,「患者が重要視している項目の優先順位を明らかにする事」を目的に考察したので以下に報告する.【方法】 靴選択の項目を明確にする為,予備調査として当院PT19名を対象に質問紙法による自由記載の形式で調査を実施し,「安定性,着脱のしやすさ,材質,外観,フィット感,重さ,値段,入手のしやすさ,左右別売り」という9項目を抽出した.この結果をもとに患者アンケートを作成した.前回の調査は,当院外来リハビリ科及び装具外来受診のP-AFOを装着した脳卒中片麻痺患者を対象に質問紙法にてアンケートを実施した.調査内容は,性別,年齢,原因疾患,麻痺側,歩行レベル,9項目に対して重要と思われる度合い(以下重要度)について5段階リッカート尺度にて回答を求めた.段階は,5大変重要だと思う,4まあまあ重要だと思う,3どちらともいえない,2あまり重要でない,1重要でない,の5段階に分けて行った.今回の調査は,過去5年間の当院退院患者の中から,屋内の患者を対象に郵送にてアンケートを実施した.調査内容は前回と同様で行った.【倫理的配慮、説明と同意】 予備調査における当院PTへのアンケートではPT全員へ説明をし,同意を得た上で実施した.前回の患者アンケートでは,研究目的,内容について説明をし,同意書にサインをもらった上で実施した.今回の患者アンケートは事前に電話連絡し,研究目的,内容について説明と同意をもらった上で郵送を行った.郵送書類の中に同意書を同封しサインをもらい,それが返信されたもののみ研究対象とした.なお,本研究は当院の安全倫理委員会にて承認を得ている.【結果】 総計60名の回答が得られたが,欠損値のあるものを除外し56名の対象であった.内訳は男性38名,女性16名,無回答2名,平均年齢61.9±13.3歳,原因疾患,脳梗塞22名,脳出血28名,くも膜下出血3名,無回答3名,右麻痺20名,左片麻痺34名,無回答2名,屋内25名,屋外31名であった.9項目の重要度の結果について5段階リッカート尺度を数値化し,その平均値にて順位づけをした.重要度が高い順に並べると「1安定性,2着脱のしやすさ,3左右別売り,4フィット感,5材質,6重さ,6入手のしやすさ,8値段,9外観」であった.各項目間の有意差の検定には,ノンパラメトリックによる多重比較法としてSteel‐Dwass法を用い,有意水準5%として行った.「安定性と外観」「安定性と値段」「着脱のしやすさと外観」「外観とフィット感」「外観と左右別売り」の間に有意差が認められた (P<.05).結果から,安定性,着脱のしやすさ,フィット感,左右別売りに比べて外観は重要視されていない事,また安定性に比べて値段が重要視さていない事が統計的に示された.【考察】 患者は外観,値段といった項目より,安定性や着脱のしやすさ,フィット感などを重要視していることから,機能性を求めている事が考えられる.また,われわれPTが靴を選択する際には,外観や値段より安定性や着脱のしやすさ,フィット感などの機能性を十分考慮する必要性がある事が示唆された.左右別売りが重要視されている結果から,今後靴の開発にあたっては,左右別売りも重要な条件の一つになると思われる.【理学療法学研究としての意義】 本研究結果が,PTにとって靴を選択する際の一つのヒントになればと考える.本研究を継続することにより,理学療法士が靴の選択の重要性を理解し,患者個別の靴の選択がなされる事が望まれる.また,このような研究活動が,今後より良い靴の研究開発の一助になればと考えている.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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