理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
ヒールパッド挿入による装具歩行での膝関節角度変位について
山本 浩二田中 和哉山村 俊一
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キーワード: 短下肢装具, 歩行, 補高
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p. Bb0766

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抄録
【はじめに、目的】 片麻痺患者の歩行において、麻痺側下肢の支持性や前方への推進力の低下に対し、装具を作成し、歩行能力の向上を図る機会が多くある。 装具は底背屈角度、材質、トリミングなど様々な設定が、歩行に大きな影響を与える。臨床上、装具の底背屈角度設定のみでなく、ヒールパッドの調整で、荷重応答期での下腿前傾角度や、膝関節の屈曲・伸展のタイミングを変化させ、歩行能力の向上に繋がった症例を経験している。 今回、靴べら式短下肢装具(以下SHB)にヒールパッド(高さ:5mm、長さ:5cm、素材:硬性ゴム)を装着した際の、歩行での膝関節角度変位を、歩行分析より検討したので報告する。【方法】 被験者は健常成人男性9名(年齢27.6±4.0歳、身長168.4±0.9cm、体重61.4±5.2kg、下腿長38.3±0.4cm、足長25.4±0.3cm)。被験者は、右下肢は裸足、左下肢にSHB(材質:ポリプロピレン、角度:底背屈0°、長さ:33.5cm、足長25.0cm)を装着し歩行を行った。SHB、SHBの内側にヒールパッドを挿入した歩行(以下in)、SHBの外側にヒールパッドを挿入した歩行(以下out)3種類の歩行をそれぞれ3試行ずつ、自由歩行で行ない、それぞれの平均値を測定値とした。計測には3次元動作解析システムVICON370(OXFORD METRICS社製)を用いた。算出項目は、左HCから下腿前傾角度が垂直になるまでの下腿前傾角速度と膝関節屈曲角速度、下腿垂直位からMS(反対側の外果が下腿を超えた瞬間)までの膝関節伸展角速度、ASISと肩峰を結んだ線の体幹前後傾角速度、下腿垂直位での膝関節角度、HCからMSまでの膝関節最大屈曲角度とした。検定は一元配置分散分析にて行い、下位検定としてScheffeを用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を説明し、同意を得た。【結果】 HCから下腿垂直位にかけての下腿前傾角速度はSHB126±16.3°/sec、in131.5±19.8°/sec、out123.5±17.8°/secであり、inはoutに比べ有意に増大(p>0.05)した。膝関節屈曲角速度はSHB103.6±28.3°/sec、in110.9±33.3°/sec、out96.3±29.7°/secとなり、8名はinがoutに比べ、下腿前傾角速度の増大と同様に増大が見られたが、1名は減少し、全体としてin・outにおいて有意差は見られなかった。下腿垂直位からMSでの膝関節伸展角速度は、SHBと比較し、増加した被験者がin4名、out4名、減少した被験者がin5名、out5名となり、個々で膝関節伸展角速度が異なっていた。下腿垂直位での膝関節屈曲角度、HCからMSまでの膝関節最大屈曲角度に有意差は見られなかった。また、SHBと比較しHCから下腿垂直位まで、体幹の前傾角速度増大した被験者がin4名、out7名、後傾角速度増大がin5名、out2名と、上半身移動の対応が異なっていた。【考察】 inの立位姿勢では、装具の中で足関節角度は底屈位となり、下腿の前傾角度は垂直となる。outでは足関節角度は中間位、下腿の前傾角度は前傾位となる。そのため、outでは立脚初期にて、下腿の前傾方向への推進力が生じると考える。しかし、今回outがinと比べ下腿前傾角速度の減少が見られた原因として、正中位での膝関節角度に著明な変位が生じなかった事からも、過度な下腿前傾方向への動きに対し、大腿四頭筋の収縮のタイミングを早めて脛骨の前傾を制御していたと考える。inではMS時足関節が底屈位であることから、脛骨後傾方向への力が生じる。そこで、立脚初期にて下腿前傾角速度を速め、前方への推進力を生み出していたと考える。膝関節屈曲角速度に統計的な有意差は見られなかったが、9名中8名で角速度の増加が見られた事からも、inでは膝関節屈曲角速度の増大傾向があり、下腿前傾角速度と対応した動きとなっていると考える。また、inとoutでは、上半身移動や、MSでの膝関節伸展角速度の変化が生じ、対応が個々により異なっていた。この結果は、下腿の動きから上半身の動き、姿勢の変化が生じる事が考えられる。片麻痺患者に対する臨床の中で、outでは立脚初期に膝関節の屈曲角度が強くなる症例が多いと感じているが、今回の研究では異なる結果となった。これは、今回被験者が健常者であった事から、下腿前傾に対する膝関節・股関節周囲筋・体幹など全身的な調整機能が高かったからだと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、装具にヒールパッドを装着する事により、下腿の前傾角速度を変化させられる事が示唆された。装具作成後もヒールパッドにより、症例に応じた細かい下腿前傾角度を設定し、片麻痺患者の身体機能、歩行能力向上を図るための装具調整が可能であると考える。これにより、荷重応答期における膝関節周囲筋の収縮のタイミングを変化させる事や、下肢の動きに合わせた重心制御が、機能再構築の一助となると考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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