理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
ロボットスーツHALを用いた慢性期片麻痺患者に対する効果的な介入方法の検討
枝折 雅之西之原 隆宏藤野 文崇吉川 榮人
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キーワード: HAL, 慢性期脳卒中, 歩行
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p. Bb0770

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抄録

【はじめに、目的】 近年,ロボット技術をリハビリテーションへ応用する試みがなされている.中でも,歩行支援ロボットについては一般的に知られるようになった.当院では,CYBERDYNE社製ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)を導入し,主に脳卒中患者に対する歩行訓練や脊髄損傷患者に対する下肢の筋力増強訓練等のリハビリテーションツールとして使用した. HALの効果については,筋活動の増大や長期介入による歩行能力の改善などが報告されている.しかし,訓練方法についての報告は少ない.そこで我々はHALを用いた慢性期片麻痺患者に対する歩行訓練の際に,被検者の随意運動に意識介入を行うことで,即時的に歩行能力が向上した1症例を報告する.【方法】 症例は,40代男性.約20年前に脳卒中により右片麻痺となる.Brunnstrom recovery stage(BRS)は上肢5・手指5・下肢5,コミュニケーションに問題なく,ADLは全て自立しており社会復帰もされている.移動手段は独歩であり,麻痺側荷重応答期(以下LR)での不安定性を訴えられている. 今回,HALを用いた通常の歩行訓練に加え,麻痺側または非麻痺側下肢の随意運動に対し,口頭指示にて意識介入を行った.1)介入前 2)通常のHAL訓練後(意識介入なし) 3)麻痺側LRでの支持を意識した訓練後 4)非麻痺側立脚終期(以下TSt)での股関節伸展を意識した訓練後の4群に分類し,それぞれ10m歩行テスト,片脚立位,踏み台昇降の各時間を評価した.統計学的分析として,各群における評価項目を多重比較検定を用いて分析した.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には,本研究におけるHAL装着について,十分な説明を行い紙面上にて同意を得た.【結果】 各群における平均値として,10m歩行テストの時間では1)10.0秒,2)10.3秒,3)11.2秒,4)8.6秒であった.片脚立位では,1)6.6秒,2)9.4秒,3)8.9秒,4)10.0秒であった.踏み台昇降では,1)17.1秒,2)17.5秒,3)18.0秒,4)17.7秒であった. 多重比較検定の結果,10m歩行テストの時間では,1)介入前と4)非麻痺側TStに(P<0.05),2)通常HALと4)非麻痺側TSt,3)麻痺側LRと4)非麻痺側TStに(P<0.01)有意差が認められた.片脚立位及び踏み台昇降については,各群間に有意差は認められなかった.【考察】 即時効果について,慢性期脳卒中患者に対しHALを用いた歩行訓練の結果,歩容の改善はみられるが,歩行能力向上はみられなかったと報告されている.今回,同様にHALを用いた通常の歩行訓練では,歩行能力の向上に至らなかった.しかし,非麻痺側下肢TStの股関節伸展を意識させた場合,10m歩行テストにおける時間短縮の即時効果がみられた. 4)では非麻痺側下肢の股関節伸展を意識したことにより,麻痺側の過剰努力に伴う病的共同運動パターンが2),3)に比べみられなかった.これはHALの股関節屈曲運動の導出筋である大腿直筋の過緊張が抑制されたことにより,麻痺側LRでの股関節伸展運動がスムーズとなり,歩行速度の向上に繋がったと考えられた.一方,2)3)では,麻痺側が過剰努力となり,病的共同運動パターンが助長された為,歩行速度に変化がみられなかったと考えられた. また,歩行時のCPG(Central pattern generator)に関する河島ら(2005)の報告によると,一側股関節を他動的に屈曲伸展させた場合,同側股関節から脊髄介在ニューロンへの求心性入力は,両側下肢の歩行様出力を促通させたとしている.このことから,非麻痺側股関節屈筋群からの伸張刺激がCPGの活動を賦活し,歩行速度の向上に繋がったことも考えられた.【理学療法学研究としての意義】 分離性の高い片麻痺患者に対し,より協調的な歩行パターンを学習させたい場合,非麻痺側下肢への随意運動に意識介入が必要であることが示唆された.本来,アシストを特徴とするHALは,下肢の同時収縮や分離運動を促通する目的で,アシスト量の検討が重要であると考える.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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