抄録
【はじめに、目的】 NEURO-15とは,健側大脳運動野に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation,以下rTMS)と上肢に対する集中的リハビリテーション(Intensive Rehabilitation,以下IR)の併用療法15日間プロトコールである.当院においては,2010年2月から手指のBrunnstrom stageが2~6レベルの脳卒中後上肢麻痺患者に適用開始した.現時点で218人以上に対してNEURO-15を施行したが,上肢機能の成績は総じて良好である.一方,渡辺らは,NEURO-15におけるIRを上肢のみでなく下肢にも実施し,下肢運動機能改善の可能性を示唆している.しかし,純粋なNEURO-15(上肢のみのIR)による歩行機能への影響に関する報告は知られていない.よって,本研究では,脳卒中後片麻痺患者に対するNEURO-15が,歩行機能に影響を与えているかを後方視的に明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,慈恵医科大学リハビリテーション医学科外来または当院外来を受診した上で,NEURO-15の適応基準(16歳以上であり,発症後1年以上が経過しておりプラトーと診断されている.また,高次脳機能障害や認知機能障害を呈さず,少なからず1年間は痙攣の既往がないなど.)を満たしていると判断された脳卒中後上肢麻痺患者とした.2011年8月20日から同年10月29日の期間に当科に入院され,NEURO-15が施行された脳卒中後上肢麻痺患者のうち,下肢のBrunnstromステージが3以上であった25人(平均年齢:59.28±12.58歳.性別:男性17人,女性8人.臨床診断:脳内出血12人,脳梗塞13人.短下肢装具:装具有10人,装具無15人)とした.各対象は,(1)40分間の健側大脳への低頻度(1Hz)刺激,(2)120分間の個別リハビリテーション(上肢のみ),(3)自主トレーニングからなる治療セッションを,15日間の入院期間中に10セッション施行された.また,rTMSは健側大脳運動野手指領域に対して,運動閾値の90%の刺激強度とした.歩行機能評価は10m最大歩行速度(10m Maximum Walking Speed,以下MWS),上肢機能評価はFugl-Meyer Assessment(以下FMA),Wolf Motor Function Test(以下WMFT)課題遂行時間(performance time,以下WMFT-pt)及びlog performance time(以下WMFT-lpt)を用いて入院日と退院前日に測定.本研究では,対象を短下肢装具の有無(装具の形状は問わない)に基づいて,装具無群と装具有群とに二分したうえで,その各群における機能改善の程度を明らかにし,両群間における機能改善の差異を検討した.さらに,上肢機能と歩行機能の関連性を検討した.統計学的処理はSPSS ver.19を用いて,各群における機能改善はwilcoxonの符号付順位検定および対応のあるt検定,両群間における機能改善はMann-Whitneyの検定,上肢機能と歩行機能の関連性はSpearmanの順位相関係数を使用し,有意水準5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 NEURO-15の提供は,慈恵医科大学倫理委員会および当院倫理委員会によって臨床研究として承認されており、同意書によって医師が患者から同意を確認している.【結果】 各群におけるMWS(装具無p<0.01,装具有p=0.05),FMA(装具有無p<0.01),WMFT-pt(装具有無p<0.01),WMFT-lpt(装具有無p<0.01)は有意に改善しており,装具有無による改善度の差は認められなかった.また,FMAの改善に伴いMWSも速くなる傾向がみられた(FMA:p<0.01 ,| r |=0.392).【考察】 本研究の結果,脳卒中後片麻痺患者に対してNEURO-15を施行することによって,歩行速度の向上を認めた.また,上肢機能の改善に伴い歩行速度が向上する傾向を示した.これは推察であるが,上肢機能が向上することによって歩行時の手の振りが容易となり,歩行速度が向上したと考える.【理学療法学研究としての意義】 脳卒中後片麻痺患者に対するNEURO-15の施行により,上肢機能が改善し歩行速度の向上しうる可能性が示唆された.本研究の限界として、(1)上肢機能と歩行機能との関連性を動作分析などによる検討をしていない(2)対象数が少ない,(3)電気生理学的検査や神経生理学的検査による検討を行っていないことが挙げられ,今後の検討が必要である.