理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
脳卒中片麻痺患者における肩関節痛の特徴と原因
─MRIを用いた麻痺側肩関節及び非麻痺側肩関節の経時的変化─
片田 昌志原田 薫雄古子 剛宿輪 宏明村上 雅哉指宿 亜紀
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p. Bb0779

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抄録

【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者の筋骨格系における肩関節痛の原因はMRIを用いた報告が多く,腱板断裂や上腕二頭筋長頭腱炎などの異常所見が確認されている.しかしながら,麻痺側肩関節及び非麻痺側肩関節の比較や発症直後から経過を追ったもの,麻痺側肩関節痛とMRI異常所見に直接的な関係があるという報告は少ない.今回,MRI所見と臨床所見との比較の先行研究として,疼痛の有無に関わらず麻痺側及び非麻痺側の肩関節MRIを経時的に評価し,MRI所見のみにおける脳卒中片麻痺患者の肩関節痛の特徴及び原因を検討した.【方法】 対象者は2011年3月中旬から2011年7月下旬までに当院に入院した43名の脳卒中患者のうちMRI施行不能者,発症前より肩関節痛を認める者,経過観察が困難である者,重度の高次脳機能障害を有する者,高度のアーチファクト画像を除いた14名とした.対象者の平均年齢は76.4±7.4歳,男性3例,女性11例,原因疾患は脳梗塞8例,脳出血6例,麻痺側は右側9例,左側5例であった.麻痺側肩関節痛の出現時期の分類としては,経過を通して疼痛が見られないA群2例,発症直後から疼痛が持続したB群4例,発症直後は疼痛がみられないが3ヶ月経過した時点で疼痛がみられたC群6例,発症直後は疼痛がみられるが3ヶ月経過した時点では疼痛がみられないD群2例の4群となった.初回評価はMRI撮影が可能な全身状態が安定した時点(19±5日)で行い,その後約3ヶ月経過した時点(87±4日)で再度MRI撮影を行った.MRI所見は放射線科医と整形外科医の読影を基に斜位矢状断及び斜位冠状断のT1,T2*強調像,脂肪抑制画像(T2FatSAT)で腱板損傷,筋腱炎,関節液の有無の異常所見を抽出し,麻痺側及び非麻痺側の異常所見の有意差を有意水準5%で統計解析した.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象者に脳卒中センター兼リハビリテーション医師の許可の基,当院MRI承諾書類の記載及び研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 麻痺側肩関節の初回MRI所見には棘上筋腱完全断裂1例,棘上筋腱不全断裂10例,肩甲下筋腱不全断裂1例,関節液の貯留(棘下筋腱周囲2例,上腕二頭筋長頭腱周囲4例,後方関節包5例),異常所見なし2例,3ヶ月経過した時点のMRI所見には棘上筋腱完全断裂2例,棘上筋腱不全断裂9例,肩甲下筋腱不全断裂1例,関節液貯留(棘下筋腱周囲2例,上腕二頭筋長頭腱周囲4例,後方関節包5例),異常所見なし2例が確認され,非麻痺側肩関節の初回MRI所見には棘上筋腱完全断裂2例,棘上筋腱不全断裂6例,肩甲下筋腱不全断裂1例,異常所見なし6例,3ヶ月経過した時点のMRI所見には棘上筋腱完全断裂3例,棘上筋腱不全断裂5例,肩甲下筋腱不全断裂1例,異常所見なし5例が確認された.麻痺側肩関節と非麻痺側肩関節の比較は評価時期に関係なく麻痺側肩関節に異常所見が有意にみられた(p<0.05).麻痺側肩関節痛の分類別に異常所見を確認すると,B群は初回評価から経過を通して棘上筋完全断裂,棘下筋腱周囲・後方関節包の関節液の貯留,C群は経過に伴い上腕二頭筋長頭腱周囲の関節液の貯留がみられる傾向となった.【考察】 Hijiokaらは高齢者の肩関節に腱板変性が存在することを報告しており,本研究の結果においても麻痺側肩関節、非麻痺側肩関節に関わらず退行変性による棘上筋腱不全断裂が生じていることが考えられる.さらに,麻痺側肩関節と非麻痺側肩関節の比較では初回評価及び3ヵ月経過時点で麻痺側に有意に異常所見が認められたことから,発症直後または数ヶ月経過時の両者において従来から無症候性に存在していた腱板損傷に運動麻痺を伴う肩関節機能不全や不良肢位等により麻痺側肩関節に筋腱損傷及び筋腱炎が生じることが考えられた.また,疼痛の原因に関しては,B群は初回評価から経過を通して棘上筋腱完全断裂,棘下筋腱周囲・後方関節包の関節液の増加,C群は経過に伴い上腕二頭筋長頭腱周囲の関節液の増加がみられたことから,疼痛出現時期によって麻痺側肩関節痛の原因が異なる傾向にあると示唆された.【理学療法学研究としての意義】 脳卒中片麻痺患者の肩関節痛は,疼痛出現時期によって従来無症候性に存在した腱板損傷に運動麻痺に伴う機能不全等が加わることで棘下筋腱周囲・後方関節包及び上腕二頭筋長頭腱周囲の炎症などの異なる原因が起因していることが考えられた.今後,臨床所見との比較を行う事で脳卒中片麻痺患者の肩関節痛の原因の追究及び理学療法の向上に繋がると考えられる.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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