理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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高頻度磁気刺激における上肢運動機能への影響について
渡邉 基起松永 俊樹佐藤 峰善畠山 和利千田 聡明島田 洋一奥寺 良弥
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p. Bb0782

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抄録
【はじめに,目的】 反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)は,大脳皮質を非侵襲的に局所的かつ無痛で刺激することができる.先行研究において,低頻度刺激は運動野の興奮性を低下させ,高頻度刺激は運動野の興奮性を高めると考えられているが,そのメカニズムは十分に解明されていない.本邦では,障害のある脳活動の変化やrTMSによる疾患に対する治療効果について多く報告されている.また,健常者を対象として脳画像診断や運動誘発電位などの基礎研究は多いが,動作への影響を調べた臨床研究は極めて少ない.さらに,低頻度刺激の報告は多いが,高頻度刺激の報告は少ない.本研究の目的は,健常者における高頻度rTMSによる上肢運動機能への影響を比較検討することである.【方法】 対象は右利きの健常男性20名(平均年齢24歳,平均身長167.2cm,平均体重64.2kg)であり,高頻度刺激群10名とSham刺激群10名にわけた.測定は全て左手で行い,ペグボード遂行時間(ペグボード)と10秒間の数取器によるカウント動作(カウント),握力計測を行った.運動学習効果を除外するため,疲労の起きない程度に練習をした.手順は,1)刺激前の測定,2)医師によるrTMS刺激,3)刺激直後の測定,4)刺激から20分後の測定の4工程である.rTMSには,MAG PRO R100(MagVenture社製)を用い,背臥位にて8の字コイルで右側の1次運動野に刺激を行い,対側の第一背側骨間筋から運動誘発電位を導出した.高頻度刺激の設定は,安全性のガイドラインであるWassermannの報告に則り,5Hzで90%rMTにて50発刺激し,1分間の休憩を挟みながら計600発の刺激を行った.Sham刺激では,高頻度刺激と同様の実施時間で,同様の刺激音を流した.統計学的解析にはTukey法を用いて,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】 実施については,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下,秋田大学倫理委員会の承認を得た.被験者へ実施前に説明し,趣旨を理解した上で書面にて同意を得た.【結果】 高頻度刺激群では,ペグボードにおいて,刺激前は24.7±4.3秒(Mean±SD),刺激直後は22.3±3.4秒,20分後は22.5±3.2秒であった.カウントにおいて,刺激前は58.0±3.4回,刺激直後は63.2±1.8回,20分後は63.6±2.7回であった.ペグボードとカウントにおいて,刺激直後と20分後は刺激前より有意に動作が速くなっていた(p<0.05).刺激直後と20分後では,有意差は認められなかった.握力において,刺激前は38.2±3.5kg,刺激直後は38.0±3.5 kg,20分後は38.6±3.6 kgであり,有意差は認められなかった.Sham刺激群では,ペグボードにおいて,刺激前は25.7±3.3秒,刺激直後は25.3±4.1秒,20分後は25.5±3.6秒であった.カウントにおいて,刺激前は58.4±4.1回,刺激直後は59.2±2.1回,20分後は58.7±3.7回であった.握力において,刺激前は40.1±3.8kg,刺激直後は39.0±4.1 kg,20分後は39.6±3.5 kgであった.ペグボード,カウント,握力全てにおいて,刺激前と刺激直後,20分後に有意差は認められなかった.【考察】 本研究では,高頻度刺激の直後と20分後において上肢機能の向上がみられ,最低20分間継続されていた.これは1次運動野への刺激が,皮質脊髄路の興奮性を増大させた可能性があると考えられる.また,握力に変化がみられなかった要因は,本研究のrTMSの頻度および強度が低いことが考えられた.高頻度刺激の疾患に対する治療研究において,Kimらは脳卒中患者においてより速く正確な指の動きが誘起されたと述べ,Lefaucherらはパーキンソン病の動作緩慢に対して有効であると述べている.これらから,高頻度刺激において正常な脳と器質性変化のある脳では同様の効果が認められたと考えられる.rTMSは,機器が高価であり,機器の設定にも専門的な知識が必要となるが,今回のような基礎的なデータを積み重ねることで,先行研究にある疾患のみならず,切断後の利き手交換などのさまざまな運動機能をより集中的に改善することができると考える.今後は,今回のような即時効果では,機能の定着はされないと報告があるため,長期の運動効果への影響を調べる必要がある.【理学療法学研究としての意義】 高頻度刺激における健常者への運動効果を明らかにすることで,将来的に障害に対するより効率良く,集中的な機能向上が図れると考えるため,臨床的な意義は大きいと考えられる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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