理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
PVL児の視覚認知障害と斜線構成能力についての一考察
浅野 大喜
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Bb1171

詳細
抄録
【はじめに、目的】 脳室周囲白質軟化症(以下PVL)は,その病変部位により運動障害だけでなく視覚認知障害を合併することが多い.PVLによる視覚認知障害の病態については近年その認知的プロフィールが解明されてきているが,PVL児が具体的にどのような視覚的表象能力をもつのかは明らかとなっていない.そこで今回,PVL児の直線の心的構成・表象能力を評価し,興味深い結果が得られたので報告する.【方法】 対象は,PVLによる視覚認知障害をもつ児4名(男児3名,女児1名)で,平均年齢は6歳8ヶ月.そのうち痙性両麻痺を呈する児は3名でいずれもGMFCSレベル4であった.また眼科で斜視や視力の問題を指摘されている児は3名いたが,眼鏡にて矯正されていた.方法は,まずプレテストとしてFrostig視知覚発達検査の手の協調性が必要な項目を除いた下位項目を実施し,視覚認知障害の有無を確認した.その際,方法や採点基準も上肢の協調性を考慮し修正した.その後,テスト1として3×3と5×5のチェッカー盤上でそれぞれ3つと5つの点によって縦と横の直線,対角を結ぶ斜線を構成する直線の構成課題を実施した.手順はそれぞれの手本をランダムに提示しそれと同じものを作るように口頭で指示し,本人ができたというまで実施した.その後さらに,直線を心的に構成する能力を調べるためにテスト2を実施した.テスト2の内容としては,方向性を示す線分が対象児の正中を中心に横に並べられた5つの目標のうちどれを指しているかを判断するという直線の心的構成課題を考案し実施した.線分の長さは目標までの1/2の長さと1/4の長さの2種類を用意した.試行はランダムに各目標2回ずつ計10回実施し,その正答率と正答・誤答の分析を行なった.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究にあたり対象児の両親にその目的と内容について口頭にて説明し同意を得た.【結果】 プレテストとして実施したFrostig視知覚発達検査の結果,4例とも生活年齢よりも低い水準の知覚年齢を示し,視覚認知に問題があることが確認された.またテスト1のチェッカー盤上での直線構成課題の結果,3×3および5×5のチェッカー盤上での縦線および横線の構成は全例において間違えることなく構成可能であった.しかし対角線を結ぶ斜線の構成においては全例で誤りが認められ,試行錯誤するうちに縦線または横線を構成してしまう結果となった.さらにテスト2の直線の心的構成課題の結果,方向を示す線分の長さが1/2のときの全体の正答率は75.0%で,縦方向つまり対象児の正中線では正答率100%だったが,線分の傾きが大きくなり目標が外側にいくほど正答率は悪く,目標が一番外側のときの正答率は43.8%であった.また線分の長さが1/4のときの全体の平均正答率は45.0%で,1/2の線分の時と同様に縦方向の正答率は100%であったが目標が外側にいくほど正答率は悪くなり,目標が一番外側のときの正答率は12.5%であった.また誤答はすべて正中方向へ変位していた.【考察】 健常児を対象とした先行研究では5×5のチェッカー盤上での斜線構成は,4歳半から5歳半の間に80%以上の子どもが可能になることが明らかとなっている.しかし3×3のチェッカー盤での斜線構成についてはこれまで調べられていない.本研究の結果から,視覚認知障害をもつPVL児は学童期になっても3×3の斜線構成にも困難があり,それは心的に斜線を構成する場合も同様であることがわかった.また斜線を構成する際にはその方向性が正中方向へずれやすいことが明らかとなった.一般的に斜線の知覚や構成が,垂直線(縦線)や水平線(横線)と比べて劣る現象は斜線効果とよばれている.PVL児の斜線構成の際,その方向性が正中方向に引きつけられるという現象は,PVLによる視覚認知障害に斜線効果が強く関与している可能性が考えられる.またPVL児の視覚注意の特徴として,部分と全体の両方に注意を向けることに困難があることから,全体を想定した部分構成という概念にも問題がある可能性が考えられた.今後はPVL児の視覚世界を理解するために,斜線効果の原因や視覚表象能力についてさらに具体的に調査していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,PVL児の視覚認知障害の病態を解明するための一助となると考えられる.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top