理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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脳血管障害患者における座位での下肢荷重力と歩行動作・階段昇降能力の関連
中村 学神田 友紀末永 達也美崎 定也
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p. Bb1188

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抄録
【目的】 脳血管障害(以下、CVA)患者への麻痺側下肢筋力強化については有用性が報告されており、麻痺の程度に関わらず、積極的な介入が提唱されている。2009脳卒中ガイドラインにおいても麻痺側下肢の筋力トレーニングは、下肢筋力を増加させ(グレードA)、身体機能を改善させるので勧められる(グレードB)としている。しかし臨床では非麻痺側下肢の廃用性筋力低下や体幹機能低下により座位や立位保持など基本動作能力が低下した症例も多く、必ずしも麻痺側下肢の随意性および筋力向上が歩行動作・階段昇降能力向上の第一選択ではないことを経験する。そこで今回の研究では村田らが開発した市販の体重計を用いた座位での下肢荷重力を測定し、CVA患者の両下肢荷重力と歩行動作・階段昇降能力の関連を調査し、動作能力達成に必要な非麻痺側・麻痺側下肢荷重力を調査することを目的とした。【方法】 当院回復期病棟入院中のCVA患者25名(男性18名、女性7名)とし、単独座位がとれない者、重度の認知症あるいは高次脳機能障害のため指示理解の困難な者は除外した。40cm台に腰掛け、市販の体重計に片足を乗せ、臀部が浮かないように3秒間最大努力下で体重計を押すよう指示した。安定して得られた数値を体重で除した値の百分率を下肢荷重率(単位%:weight bearing rate、以下WBR)とした。身体機能に関しては,年齢、性別、body mass index(以下、BMI)、発症からの期間、下肢Brunnstrom stage(以下、下肢BRS)、感覚障害の有無を調査した。上記項目を独立変数、歩行動作・階段昇降自立度を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施し、それぞれの自立度に必要な因子を抽出した。抽出された項目が歩行動作・階段昇降自立を判別するうえで有用か否かについてreceiver operating characteristic 曲線(以下、ROC 曲線)を求め、曲線下面積(area under the curve、以下AUC)によって検討した。統計処理はSPSS 12.0J for Windowsを使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究に関する説明を行い、同意を得て実施した。【結果】 調査項目の平均値(標準偏差)は年齢67.8(8.7)歳、BMI21.5(2.1)、発症からの期間122.2(41.0)日であった。下肢BRSはステージ2:2名、ステージ3:4名、ステージ4:5名、ステージ5:10名、ステージ6:4名であった。麻痺側WBRと非麻痺側WBR、麻痺側WBRと両下肢WBR、非麻痺側WBRと両下肢WBRいずれもr=0.8以上の強い正の相関がみられた(p<0.01)。このため多重ロジスティック回帰分析にはいずれか1つを採用して3つのモデルを作り比較した。多重ロジスティック回帰分析の結果、歩行自立に必要な因子として両下肢WBRと下肢BRSと注意障害が抽出された。寄与率は85.1%、回帰式の的中率は92%であった。歩行動作自立を状態変数としたときのAUCは両下肢WBRが0.896であった(p=0.001)。また両下肢WBRのカットオフ値は54.5%(感度75%、特異度100%)であった。次に階段昇降に必要な因子として麻痺側WBRと感覚障害と注意障害が抽出された。寄与率は69.3%、回帰式の的中率は92%であった。階段昇降自立を状態変数としたときのAUCは麻痺側WBRが0.851(p=0.029)、カットオフ値は30.0%(感度100%、特異度81%)であった。【考察】 村田らによると、座位で計測するWBRは大腿四頭筋筋力や体幹筋力を反映している。今回は座位でのWBRから動作能力に必要な下肢機能を検討した。今回の結果より歩行動作と階段昇降動作自立に必要なWBRは変化した。歩行動作自立には他側の下肢を振り出すために一側下肢の支持が必要不可欠であり、これらが両下肢に求められること、階段昇降自立には手すり使用下でも非麻痺側下肢を上段にあげる動作時の麻痺側下肢の支持が必要であることから必要なWBRが変化したと考えた。歩行動作では両下肢WBR 54.5%、階段昇降では麻痺側WBR 30%が各動作自立に必要な基準として示唆された。【理学療法学研究としての意義】 座位でのWBRを使用することで、立位での下肢機能測定に比べ比較的安全に下肢機能を測定できる。また座位保持ができれば測定可能であり、立位保持に比べ対象範囲が広い。CVA患者における動作自立に必要な麻痺側、非麻痺側下肢機能が測定でき、理学療法評価の一助となり、理学療法治療の効果判定・目標設定として治療に活用できる。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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