理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
肺炎を繰り返す重症心身障害者における姿勢ケア
─腹臥位の導入に難渋した症例について─
梶 睦大下 浩希羽原 史恭青山 香安藝 晴菜永田 裕恒山本 奈月久山 美奈子美濃 邦夫大田原 幸子羽井佐 昭男
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p. Bb1187

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抄録
【はじめに、目的】 重症心身障害を持つ人の多くは呼吸器系に関連した問題を持ち、肺炎を発症することが多い。姿勢変換や咳嗽が難しく、また口腔内に痰が上がってきても口腔外に出せないなど、自己喀痰が困難である。そのため、呼吸器系に問題を持つ重症心身障害児・者へのケアとして、理学療法実施中をはじめ、日常生活においても排痰が行えるよう、各個人に合わせた環境設定が必要となる。腹臥位姿勢は、口腔から痰や分泌物が排出しやすい姿勢の一つであり、さらに、リラクゼーションなどの効果も期待される。しかしその反面、胸郭の圧迫による呼吸苦や窒息、また骨折などの危険性があり、日常生活場面への導入には、本人が安楽に、安全に姿勢を保つことができることに加え、介助者が誰でも安全に姿勢変換ができることが必要となる。今回、痰の貯留による呼吸困難感や誤嚥の危険性があり、肺炎を繰り返す症例に対し、排痰を促しやすい腹臥位姿勢の日常生活場面への導入を試みたが、結果的に導入までに至らなかった要因について検討した。【方法】 対象は、当院に入所中の50代女性、痙直性両まひを持ち、GMFCSレベルIVである。発声と身振りで意思表示を的確に行い、快・不快を明確に表すことができる。常に咽頭・喉頭で喘鳴が確認され、体調不良時には努力性呼吸が顕著となる。咳嗽は可能だが口腔内に分泌物が貯留していることが多い。肺空洞症があり、肺炎を繰り返している。時期による偏りはあるが、37.0℃以上の熱発のある日が平均5.6日/月である。本症例に対し、理学療法実施中に喀痰の排出がスムーズであった腹臥位姿勢を日常生活場面に導入するため、身体の変形や胸郭の除圧を考慮したポジショニング用具で腹臥位姿勢を設定した。そして、腹臥位を導入する時間帯や介助量について病棟の担当職員と検討し、その設定方法を伝達、実際に体験してもらった。加えて、写真入りのポジショニングシートの提示を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者とそのご家族には、本報告の主旨を説明し、同意を得た。【結果】 ポジショニング用具を用いた腹臥位では、口腔内の喀痰排出が良好で、ご本人も「楽」と言われ、約30分間の姿勢保持が可能となった。病棟職員の受け入れも良好であった。しかし、導入が決定した直後、体調不良により血中のCRP値が変動、アルブミン値が低下し、炎症や栄養不良状態が認められたため点滴を穿刺した状態が続いた。体位変換は許可されていたが、抜針の可能性があるとして理学療法中以外での腹臥位保持の実施が困難となった。回復後も理学療法中のみ腹臥位姿勢の保持は可能であったが、日常生活場面への導入には至っていない。【考察】 ポジショニングの日常生活場面への導入には、その姿勢の必要性と、安楽、安定、安全に設定が行えることが必要である。腹臥位は、本症例にとって排痰に適した姿勢と考えられ、ポジショニング用具の設定により安定した腹臥位姿勢がとれるようになった。体調不良による点滴治療という状況下でも、その方法により腹臥位は実施できる場合もあるが、今回は導入までには至らなかった。その原因として、一つ目に、安全な姿勢変換の方法が病棟職員全体で確立されていなかったことが挙げられる。本症例の生活されている病棟の利用者数は42名であり、日勤帯の職員数は8~16名である。本症例を担当する職員への説明は行えたが、病棟職員全体に説明をする機会を十分に作れなかったため伝達が不十分であった。二つ目に、分割されたポジショニング用具を使用するため、安静時のベッド上での姿勢変換に少なくとも2人以上の人員を要したことが挙げられる。三つ目に、体調不良時と重なってしまったため、腹臥位実施中も小まめな姿勢調節が必要となり、病棟職員の負担が増えてしまったことが挙げられる。今後、本症例に関わる多くの病棟職員との十分な情報交換や、設定の簡易化に取り組み、日常的に排痰が行えるよう日常生活場面への腹臥位の導入を目指したいと考えている。【理学療法学研究としての意義】 重症心身障害児・者において、姿勢ケアは欠かせないものである。今回、ポジショニングが日常生活場面へ導入できなかった要因について分析し、考察した。難渋したケースを取り上げることで、今後の問題解決の一つとなると考えている。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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