理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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一般演題 ポスター
左半側視空間無視患者におけるヘッドマウントディスプレイを用いた視空間認知評価
─一症例における眼球運動評価の有用性について─
杉原 俊一宮坂 智哉田中 敏明泉 隆清水 孝一
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p. Bb1407

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抄録

【目的】 半側空間無視(USN)の空間認知については,異なる座標の関与が示唆されている。我々はこれまでHMD(Head Mounted Display)を用いて物体中心座標を人工的に作るシステムを開発し,机上検査と日常生活でのUSN出現の関連性について報告してきた。日常生活場面でUSN患者の頭部が病巣側を向きやすいことは,臨床場面では観察されるが詳細な眼球運動分析の報告は少ない。そこで本研究では,眼球運動計測を加えたシステムにて左USN患者を評価し,その有用性について検討することを目的とした。【方法】 本システムでは,上方に固定した2つの小型CCDカメラで机上検査用紙を写す物体中心条件,またはHMD外に設置した小型CCDカメラで検査用紙を写す身体中心条件を設定することができる。HMD内液晶ディスプレーに机上検査用紙を投影し,視覚情報呈示方法には無視領域を除外した視覚情報縮小および,無視領域への注意喚起として映像に矢印を重ねる方法用いる。本研究ではHMDに投影する映像を画面中央方向に75%,画面の右端方向に75%に縮小した条件,または,画面右端より矢印が移動する矢運動条件で,視覚情報呈示した。更に今回は,HMD内に2つの超小型CCDカメラを設置し,斜め前方向より左右の眼球運動を撮影して,眼球・頭部・体幹の運動を同時記録した。眼球の分析には,動作解析ソフトFrame-DIAS IV を用いた。このソフトでは眼球画像の2値化処理により右眼球の楕円状瞳孔を描出する。得られた瞳孔長軸が内接する四角形から瞳孔移動点a(X1,Y1)を同定し,特殊評価中の眼球移動点を数値化した。また,目頭付近に直径9mmの反射シール添付し,その中心点を固定点b(X2,Y2)と定め,検査中の瞳孔移動点よりXY方向の相対変位(pixel)を算出した。机上検査については,Behavioral Inattention Test(BIT)行動性無視検査日本版の線分抹消試験を用い,左右紙面の抹消率を求めた。また,物体中心条件については,左紙面を均等に3つに区分して(左左/左中/左右),各条件について比較検討した。本研究の被験者は,MRIにより右中大脳動脈に梗塞を認めた63歳の女性である。運動麻痺は認めないものの,移動場面で介護者の見守りが必要で,MMSEは28/30点,BITでは通常検査118点 (カットオフ:131点)であった。【説明と同意】 本研究ではヘルシンキ宣言に沿って,被験者には十分な説明を実施し同意を得た。【結果】 左紙面末梢率は,通常検査で67%であったが,身体中心条件では94%,物体中心条件では39%であった。右紙面末梢率は,中央縮小条件で83%であったが,他の条件では著明な低下を認めず,物対中心条件で左USNを認めた。また,3つに区分した左紙面の抹消率は物体中心で0/17/100%,中央縮小では0/50/100%,右縮小では67/67/100%となり右縮小条件の2つの区分で抹消率が増大した。較正作業において眼球運動はペン先によく追従していた。右紙面抹消時の運動変位は,較正作業時の右紙面より各条件全てが右方向に増大し,左紙面抹消時では左方向の変位が減少した。縮小条件における眼球運動の右方向の最大変位量は,右方向縮小より中央縮小が少なく,右縮小と物体中心は同様であった。また,左方向の最大変位は中央縮小と右縮小で同様であり,両条件とも物体中心より増大していた。さらに矢運動条件では,物体中心条件よりも左方向の変位が増大した。【考察】 較正作業の結果からペン先と眼球運動変位が一致しており,動作解析ソフトを用いた眼球運動評価が可能あった。また,物体中心における各縮小条件の左紙面抹消率の減少と左右方向の眼球運動変位は,頭部運動に影響を受けない計測環境とHMD液晶画面の影響を受けたと推測される。これはフレームの影響を受けるというNiemier(2002)らと同様の結果と考えられる。更にこのような物体中心条件においても矢運動刺激により抹消率が改善し,左方向の眼球運動も増大したことは,視覚的に連続した運動で左に注意を促す臨床場面のアプローチを支持するものと考えられる。これらの結果は,眼球運動計測を加えた本システムがUSN症状の詳細な検出に有用であると示唆するものである。【理学療法学研究としての意義】 課題や状況により異なる可能性があるUSN症状に対し,臨床においては,頭部,体幹運動に伴う眼球運動も考慮した検査およびトレーニングが重要である。また,開発した検査システムは,従来の検査より簡易的に障害像を明らかにできる可能性があると考える。

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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