理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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進行期パーキンソン病における起立時の血圧と心拍変化について
山下 豊堀場 充哉田中 照洋佐橋 健斗梅村 淳岡 雄一大喜多 賢治松川 則之和田 郁雄
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p. Bb1433

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抄録
【はじめに、目的】 近年,パーキンソン病(PD)の自律神経障害や認知機能障害などの非運動症状が注目されている.自律神経障害のなかでも起立性低血圧(OH)は転倒リスクに関連しうるため,患者の行動範囲を制限するなど,QOLに影響する.OHを伴うPD患者の背景として様々な要因が指摘されているが,自律神経系の変性,PD治療薬の影響が,大きな要因であろうと推察されている.OHと運動症状との関連性については,運動症状が重度であるほどOHを合併しやすいという報告がある一方で,運動症状よりもOHが先行する症例もあるとの報告もある.起立時の心血管系の指標には,血圧と心拍数の応答性がある.血圧は血管の収縮性や血液の移動,体液量など主に末梢要因に,心拍数は心臓の調律に規定される.そこで,PD患者における起立時の循環器応答に関連する因子を明きらかにするために,血圧と心拍数それぞれの変化と,様々な因子との関連性について検討した.【方法】 進行期のPD患者56例を対象とした.年齢64±9歳,男性23例,女性33例,罹病期間は12±6年,重症度はHoehn & YahrのステージでON時2.4±0.7,OFF時4±0.8,PD治療薬投与量はドーパミン換算量(LEDD)で510±212mg/dayであった.対象者全員に傾斜台を用いた受動的起立試験を施行した.手順として,傾斜台上で15分以上の十分な安静仰臥位の後に70°の起立負荷を6分間施行した.血圧はSTBP-780(コーリンメディカル)を用いて上腕カフ法にて,心拍数はアクティブトレーサー(GSM社)を用いてモニタ心電図の誘導よりRR間隔を導出し,安静時および起立時にそれぞれ測定した.安静時と起立時の収縮期血圧および心拍数の差をそれぞれ算出し,⊿SBP,⊿HRとした.運動機能はunified Parkinson disease rating scale partIII(UPDRSIII)を用いてON時とOFF時に検査した.認知機能はMini mental state examination(MMSE)とfrontal assessment battery(FAB)を用いて検査した.その他の背景因子として,年齢,罹病期間,MIBG心筋シンチグラフィー心筋縦隔比後期像(MIBG HM比),LEDDについてカルテより参照した.これらの因子と⊿SBP,⊿HRそれぞれとの相関をもとめた.起立試験時の服薬は通常通りとした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,名古屋市立大学倫理委員会の承認を得た.【結果】 対象者の安静時の血圧はSBPが116±16mmHg,DBP:が67±9mmHg,心拍数は67±11bpm,起立時の平均⊿SBPは-15±20mmHg,平均⊿HRは12±8bpmであった.⊿SBP,⊿HRそれぞれとの相関については,年齢(0.06,-0.37),罹病期間(-0.02,0.09),安静時SBP(-0.23,-0.46),安静時HR(0.04,-0.04),MIBG HM比(0.01,0.62),LEDD(0.36,-0.08),ON UPDRSIII(-0.14,0.07),OFF UPDRSIII(-0.07,0.13),MMSE(0.27,0.26),FAB(0.22,0.23)であった.起立時に眩暈や気分不良などの症状を認めたものはいなかった.【考察】 PDにおける自律神経系の変性に関する有力な報告としてBraakらの剖検がある.それによると迷走神経背側核の変性,迷走神経のような無髄で線維の長い神経ほど侵されやすいことが指摘されており,自律神経系の変性がOHに関与する可能性がある.しかしながら,自律神経系の変性を臨床的に反映しうるMIBG心筋シンチグラフィーによる心臓交感神経終末の取り込み低下所見は,PD患者の80~90%に認められているにもかかわらず,OHの頻度はそこまで高いものではない.一方で,PD治療薬がOHに関連するという意見も根強い.PD治療薬であるlevodopaやアゴニスト剤が,OHを誘発するという報告は多数ある.しかしながら,これらの薬剤は大多数のPD患者に投与されているものの,OHは必発の症状ではない.今回の結果では,起立時の血圧変化に相関が高かった因子はLEDDのみであった.LEDDが多いほど血圧が低下していないという結果は,一部の症例に高血圧合併を認めたことやOHに対する薬剤の影響を受けていたためと考えられる.一方で心拍数変化については,年齢と緩やかな相関を,また心臓交感神経の指標であるMIBG心筋シンチグラフィーHM比と高い相関を認めた.したがって,PDにおける起立時の循環器応答では,血圧よりも心拍数のほうが自律神経系の変性をより鋭敏に反映しているかもしれない.運動症状との関連性は血圧,心拍数ともに認められなかった.本研究のlimitationとして,対象者がほとんど進行期の患者であるため,進行に伴う変化が明らかにできないこと,また循環器応答が服薬の影響を受けている可能性がある点があげられ,今後の課題と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究はパーキンソン病患者の起立性低血圧に対する理学療法的対応の開発や,日常臨床場面にけるリスク管理に寄与するものと考える.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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