理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
進行期パーキンソン病の立位姿勢制御に対するレボドパと深部脳刺激術の影響
堀場 充哉梅村 淳松川 則之岡 雄一大喜多 賢治山下 豊田中 照洋佐橋 健斗和田 郁雄
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Bb1434

詳細
抄録
【はじめに】 パーキンソン病(PD)の進行に伴い,立位の不安定性などの軸症状は頻繁に出現する.これらは転倒原因となり,日常生活の制限因子となる.また,ジスキネジアなどの薬剤副作用も,立位の不安定性を悪化させる要因と考えられる.一方,視床下核への深部脳刺激術(STN-DBS)は,多くのPD症状の改善に有効であり,また抗PD薬の減薬も可能なため,近年注目されている.PDの姿勢制御の障害には,非ドパミン回路の脚橋被蓋核(PPN)の機能不全が関与することが示唆されており,レボドパによる立位の不安定性の改善効果は乏しいと考えられる.また,STN-DBSによる改善効果も明らかではない. 今回我々は,レボドパおよびSTN-DBSによる立位姿勢制御への影響を明らかにすることを目的に,立位の不安定性の改善効果を比較した.【対象】 両側のSTN-DBSを目的に入院された進行期PD患者21例(平均63.8歳)を対象とした.罹病期間は平均10.2年,Yahrの重症度はOn/Off 2.5/4.2であった.また,壮老年期健常者17名を比較対照群(control)とした.【方法】 臨床評価には,UPDRSを用いた.立位の不安定性は,安静開眼立位時の足圧中心(COP)を60s間計測し,Collinsらが提唱したstabilogram diffusion 解析(SDA)を行った.SDAとは,COPの暫定的な安定位からの変位が遠心性あるいは求心性となるかを確率論的に導くものである.時間間隔ごとの COPの変位量の二乗をプロットし,1s前後までの急激な変位量の増加(短時間領域)とその後の緩やかな増加(長時間領域)の2つの領域に分け,最小二乗法によって求めた各領域の回帰直線の傾きから,短時間領域の拡散係数(遠心性変位の持続,開ループ制御),長時間領域の拡散係数(遠心性変位の非持続,閉ループ制御)を求めた. 評価条件は,術前の休薬時(Off),ドパストン50mg負荷時(On),STN-DBS術後1年時のレボドパ併用によるDBS刺激ありの3条件で実施した. 統計は,Friedman検定,Scheffe法による多重比較,Steel法による多重比較,Wilcoxon signed rank testを用い,危険率5%未満を統計的有意とした.【倫理的配慮】 本研究は,名古屋市立大学倫理員会にて承認され,対象者には説明,同意を得て実施した.【結果】 (1)UPDRSの運動項目 合計点は,Offの平均30.2点に対し,Onでは10.0点,術後1年時9.2点と,いずれも有意な改善を認めた(p<0.001).しかし,Onと術後1年時には差を認めず,抗PD薬とSTN-DBSによる運動機能の改善効果は同等であった.一方,下位項目のうち固縮は,Offの平均6.6点に対し,Onで1.8点,術後1年時0.7点といずれも改善を認め(p<0.001),特にSTN-DBSによる固縮の軽減効果が高かった(On vs術後1年時,p<0.05).姿勢安定性は,Offの平均1.9点に対し,Onでは0.9点,術後1年時1.1点といずれも有意な改善を認めた(p<0.001).しかし, Onと術後1年時には差を認めなかった.(2)SDA 短時間領域の拡散係数は,Offの平均8.8mm2/sに対し,Onでは23.9mm2/sと増大する傾向を認めたが(p=0.06),術後1年時には11.9mm2/sとOffと同等であった.しかし,いずれの条件でもcontrolに対しては,有意に増大していた(p<0.001).一方,長時間領域の拡散係数は,Offの平均5.7mm2/sに対し,Onでは4.3mm2/sと改善を認めなかったが,術後1年時には1.3 mm2/sと有意な改善を認め(vs Off・On,p<0.01), controlと同等まで改善した.【考察】 STN-DBSは,レボドパに比べ固縮改善効果が高いこと,短時間領域の拡散係数に増大が認められないこと,感覚情報にもとづくフィードバック制御の関与が示唆されている長時間領域の拡散係数を改善させることが認められた.これは,立位姿勢制御に対するSTN-DBSとレボドパの作用機序が異なることを反映していると考えられる.PDの姿勢制御の障害には,PPNの機能不全が関与することや,STN-DBSは筋緊張の制御に重要なPPNを介する非ドパミン系システムを賦活させることが示唆されている (Smithら, 1990,Guhelら,2004).一方, UPDRSの姿勢安定性項目では,レボドパとSTN-DBSによる差を認めなかった.これはUPDRSが不安定性の原因を明らかにするように設計されていないことや(Rochiiら,2002),姿勢安定性の項目が静的立位ではなく後方突進を評価するものであり,姿勢反射や予測的姿勢制御の要素も含んでいるためと考える.【理学療法学研究としての意義】 進行期PDの立位の不安定性の改善効果はレボドパとSTN-DBSでは異なるため,UPDRSとSDAを組み合わせることで,転倒リスクの評価や治療効果判定に役立てることが可能と考えられる.
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top