抄録
【目的】 近年、本邦では年間3万人を超える自殺者が出ており、未遂者を含めると多くの患者が救命後の後療法を必要としていると推察される。救命救急センターに搬送された自殺企図者の75%に精神科的治療の継続が必要で、後療法として身体合併症治療及びリハビリテーションが継続できる施設への転院が実現したのは10%に留まっているという報告もある。これは、精神科的治療及び身体合併症治療を同時に行う必要性は認識しているものの、実際には難しいということを指し示している。当院は身体障害を合併した症例を対象としたリハビリテーション科を併設している精神科病院であり、双方に取り組めるハード・ソフトを整備してきた。近年、近隣の救命救急センターや精神科病院からの依頼を受け、多数の患者のリハビリテーションを担当してきた。今回はそのデータを調査し、その傾向について報告する。【方法】 平成18年から平成23年10月までに自殺未遂や自傷行為にて受傷し、リハビリ目的で当院に入院した患者66名(男性21名、女性46名:平均年齢41.2±17.3歳)について、精神科診断名、身体合併症名、受傷機転、受傷から当院入院までの期間、入院時・退院時のFIM、在院期間について調査を行った。【倫理的配慮】 本研究は、当院倫理委員会の審査を受けている。【結果】 精神科診断名は、認知症3名、アルコール依存症2名、統合失調症31名、うつ病・躁うつ病14名、適応障害・解離性障害など3名、人格障害11名、精神発達遅滞1名、不明1名であった。身体合併症名は、大腿骨骨幹部骨折や踵骨骨折など四肢・骨盤の骨折の他、外傷性くも膜下出血や低酸素脳症、脊髄損傷、切断など多岐にわたっている。受傷機転は飛び降りによるものが最も多く54名、次いで過量服薬によるものが4名、電車への飛び込みが2名、縊首2名、切創・服毒が1名ずつであった。受傷から当院入院までの期間は平均98.3±184.3日、入院時FIMは平均81.6±26.7点、退院時FIMは平均110.6±30.0点、在院期間は平均175.4±174.8日であった。退院時FIMについては、86.4%の患者が自宅退院が可能な点数と報告がある92点以上を達成した。【考察】 希死念慮による自殺未遂や、アピール目的の自傷行為、幻聴や妄想に支配された飛び降りなどで身体合併症を負った場合、救命後に精神科的な治療及び対応が求められる。それは患者の状態を注意深く観察した上で行われる、刃物や紐類などの危険物の管理や薬物療法、精神療法による専門的対応である。こういった中で、身体合併症を負った患者に対応することは、精神科の専門スタッフのバックアップなしに行うことは難しい。そういった背景からも、一般科の病院での精神科疾患を持つ多発外傷患者のリハビリテーションは難しいと考えられる。また、自殺未遂・自傷行為をした症例は、病院外で生活してた場合が多く、必然的に退院先を自宅と設定する場合も多い。自宅に退院先を設定する場合には、身体能力も認知面も一定以上の高いレベルが要求される。このカットオフ値としては、92点以上であるという報告があり、本調査もこの報告に習いカットオフを92点として終了時FIMを調査したところ、疾患に関わらず、86.4%が自宅退院を選択できるADLを獲得したと言える。これは、どんな精神科疾患があったとしても、我々リハビリテーションスタッフの介入と精神科的バックアップにより、効果を上げることが可能であることを示していると考えている。【理学療法学研究としての意義】 自殺者急増の時代的背景より、自殺未遂などによる多発外傷の患者に対する後療法には精神面・身体面療法からの介入が必要不可欠であり、今後身体面については理学療法士が介入し、直接治療を行う必要性が高くなると考える。その中で、傾向やアウトカムについて調査・分析することは理学療法士の質を担保することにつながると考えているため、今後も調査・分析を進めていきたい。