抄録
【目的】 厚生労働省によって3年ごとの10月に全国の医療施設に対して行われている「患者調査」の結果から精神疾患、特に「気分障害」の患者数が増加している.また、精神科病院内でも長期入院患者の高齢化が進んでおり、大腿骨頸部骨折に対するリハビリの需要も増加していくことが予測できる. 平成23年、第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会において当院は精神科疾患患者における大腿骨頚部骨折後歩行獲得率について報告した.今回はさらに、歩行獲得率に影響した因子を調査する目的で分析を行なったので報告する.【方法】 対象は2007年1月から2011年4月に当院リハビリテーション(以下、リハビリ)を施行し、大腿骨頸部骨折を受傷した、精神科疾患を合併する症例52例(男14例、女38例)、平均年齢71.6歳±11.1歳である.これら対象の性別、年齢、開始時移動機能(FIM)、精神科疾患名(認知症など:F0、アルコール依存症など:F1、統合失調症など:F2、気分障害など:F3 )、術式(人工骨頭置換術、骨接合術)、術後リハビリ実施までの日数の項目に対し、従属変数に終了時FIM移動機能を用いて重回帰分析を実施した。【説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の審査を受けている.【結果】 年齢、開始時移動手段(FIM)、精神科疾患名の項目において歩行獲得との相関が認められた.年齢では低年齢、開始時移動機能では歩行、精神科疾患名ではF3において高い確率となった.この結果から2.286×F3(0.1)+0.577×開始時移動機能-0.059×年齢+8.419の式に当てはめることで予後予測のパラメーターとなると考えられる.また、R2=0.494である.【考察】 今回の分析結果は年齢、開始時移動機能について先行文献で精神疾患なしの患者に対して行った予後予測研究と概ね同様の結果が出ている.また、今回は精神科疾患名の項目においても歩行獲得との相関が認められたことで精神科疾患患者における大腿骨頚部骨折後歩行獲得率が予測できるようになると考えられる. F3の歩行獲得率が高い理由として当院が第37回日本精神科病院協会精神医学会にて報告した「身体リハビリを阻害する精神症状(第2報)」より、F0 F1は理解力低下、F2は自発性低下が、リハビリを阻害する精神症状として報告している.一方、F3においてはF0、F1、F2に比べリハビリに影響する因子が少ないことも理由の一つであると考えられる. これにより早期のゴール設定も明確となり、適切な訓練プログラムの立案を行なうことが可能となる.一方で、精神科での入退院は複雑な社会背景を持つ患者が多く、ケースワークに時間がかかることも多い。今回の研究結果からリハビリ目標、期間の明確化や短縮に繋がると考えられ、これらの需要に対応していく上で非常に重要な指標となる可能性を秘めている.【理学療法学研究としての意義】 精神疾患があるとリハビリを受けられないもしくは結果が望めないと思われがちであるが確実な治療効果が望めるのでデータを蓄積し理学療法士の必要性や、介入による効果も実証されつつある.新たな職域獲得の為にも、今後も継続していく必要性がある.