理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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精神科入院患者の身体組成と身体活動に関する予備的横断研究
加賀野井 聖二橋本 洋平寺田 智加山本 大誠松田 拓也
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p. Bd1455

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抄録
【はじめに、目的】 近年、生活習慣病予防のために、運動習慣および体力づくりの重要性が指摘されている。しかし、生活習慣の悪化を引き起こしやすい精神疾患患者に対する運動の効果については十分な検討がなされていない。精神疾患患者の治療は長期入院を必要とする場合が多く、さらに無為自閉や活動性低下などの陰性症状を伴うことから、身体活動量の低下は避けられないことが推測される。精神疾患患者における運動量の低下に関する報告は種々なされているが、これまで運動処方を明確に示した資料はない。精神疾患患者に適応可能な運動ガイドラインを作成するには、日中の活動量を定量的に長期間調査し、生活習慣の実態について把握することが課題となる。本研究の目的は、精神疾患入院患者の身体組成と身体活動量の計測から生活習慣の実態について調査し、生活習慣病予防のための運動ガイドライン作成の基礎資料とすることである。【方法】 対象は、芸西病院精神科に入院患中で歩行可能な者を無作為に抽出した者9名(男性5名、女性4名、52~67歳、統合失調症8名、器質性精神病1名:A群)であった。そのうち6名は、合併症として骨関節疾患、脳血管障害、糖尿病、高血圧、脂質異常症が認められた。また、比較対照群として当該病院職員で同意が得られた健常者4名(男性2名、女性2名、55~60歳:B群)を設定した。測定内容は、身体組成(BMI、体脂肪率、基礎代謝量)と活動量(歩数、燃焼脂肪量、活動エネルギー量、24時間活動状況)を計測した。身体組成の測定は、身体組成計(タニタ社製Inner Scan BC-309)を、活動量の測定は活動量計(タニタ社製カロリズムAM-120)を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、芸西病院倫理委員会の倫理審査による了承を受けた後、対象者への十分な説明のもとに同意を得て実施した。【結果】 身体組成の計測結果では、BMIの結果よりA群では低体重2名、普通体重4名、肥満1度3名であり、B群では低体重1名、普通体重3名であった。体脂肪率の結果よりA群では標準4名、標準(+)2名、軽肥満2名、肥満1名であり、B群では低い1名、標準2名、標準(+)1名であった。基礎代謝量の結果よりA群では基準値より低値5名、高値4名であり、B群では低値4名であった。身体活動量の計測結果では、平均歩数の結果よりA群では最小歩数69歩、最大歩数7246歩であり、平均脂肪燃焼量の結果よりA群では最小燃焼量0g、最大燃焼量16.4gであり、B群では最小燃焼量5.6g、最大燃焼量20.6gであった。平均活動エネルギー量の結果よりA群では最低量42.2kcal、最高量861.1kcalであり、B群では最低量350.9kcal、最高量791kcalであった。24時間活動状況の結果よりA群では就寝時間が遅く夜中まで活動をしている者がおり、不規則な生活パターンが認められたのに対し、B群では就寝時間や日中の活動時間帯にばらつきが少なく、規則正しい生活パターンであることが認められた。【考察】 今回、身体組成値および活動量の比較結果より、精神科入院患者は健常者と比較して明らかに運動量が少なく、内科疾患罹患の危険性が高い傾向が認められた。なかでも、生活習慣病を含む合併症を有する者については、特に運動量が減少していた。この背景には、一般的に精神科入院患者には喫煙者が多い事に加え、おやつやジュースなどの偏食傾向が強く、自己の健康管理に対する無関心があげられる。本研究の結果から、精神科入院患者は慢性的に運動量が不足していることが考えられ、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を合併する可能性が高いこと、あるいは今後悪化する生活習慣病予備群であることが予測された。また、規則的な生活パターンの健常者でさえも基礎代謝量においては4名全員が基準値を下回っており、歩数も厚生労働省の目標とする基準値に達していない者が多く運動不足の傾向が強く認められた。この結果は、健常者においても改めて健康を意識する必要性を示唆した結果であるといえる。また、閉鎖的な環境下で生活をし、さらに運動量の少ない精神科入院患者は、健常者以上に運動の習慣化や健康への関心を向けることが必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、種々の簡便な計測器具を用いて精神疾患患者の生活実態を把握し、運動量および生活パターンを明らかにした。運動量の低下と生活パターンの乱れは、生活習慣の悪化を引き起こす要因となる。理学療法は、これらの身体合併および生活習慣の維持・改善に寄与する具体的方法論を提案することができ、本研究は精神科領域における理学療法介入の必要性および運動ガイドラインの作成に重要な位置づけとなったと考える。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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