抄録
【はじめに、目的】 片麻痺患者の速やかな歩行機能の回復は、その後のADLやQOLに重大な影響を及ぼし、社会的コストの低減にも貢献する。先行研究にて、回復期脳卒中片麻痺患者の歩行機能の回復に関して、体重免荷装置を用いたトレッドミル歩行トレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下BWSTT)と平地歩行トレーニングとの間に差異は見出せなかった(高村 2010)。BWSTTのみを介入としたため、アウトカムである平地歩行への転移が不十分であった可能性があった。そこで本研究では、BWSTTと平地歩行を併用することが、回復期片麻痺患者の歩行改善に有用であるか否かを明らかにすることを目的とした。研究仮説は、「BWSTTのみ、平地歩行トレーニングのみと比較して、BWSTTと平地歩行トレーニングの併用は歩行能力を改善させる」とした。【方法】 本研究は、片麻痺患者を対象とした歴史的対照介入試験である。包含基準は、回復期病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者、発症からの期間が4~12週間、1人の介助で10mを歩行可能な者とした。除外基準は、口頭指示の理解が可能ではない者、重度の認知症者、重度の失語症者、クモ膜下出血者、下肢に疼痛や整形外科的疾患を有する者、心疾患を有する者、小脳疾患者、発症前に歩行不能な者、再発した者、著明な麻痺がなく歩行が自立している者とした。計29名が対象者として取り込まれた。麻痺の重症度として、下肢のBrunnstrom StageII以下が14名、IIIが6名、IVが8名、V以上が1名であった。対象者は、BWSTTを行う群(BWSTT群)、BWSTTと平地歩行トレーニング併用群(併用群)、平地歩行トレーニング群(平地歩行群)、に割り付けた。介入期間は7週間とし、3群とも週3回以上の歩行トレーニングを行った。観察因子は、10m快適歩行速度およびケイデンス、ストライド長、Belg Balance Scale(BBS)、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)、Functional Independent Measure(FIM)、歩行自立度としてFunctional Ambulation Category(FAC)とした。計測は、介入前後に2回行った。統計分析には二元配置分散分析およびPost Hoc testとしてTukey/Kramerを用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は貞松病院の倫理委員会の承認を得た。ヘルシンキ宣言に基づき作成した同意書を用いて本研究の内容を説明し、同意を得た者を対象とした。【結果】 3群ともすべての項目において、介入前後の有意差は認められなかった。3群間の比較においても、すべての項目で有意差は認められなかった。【考察】 今回の結果では、歩行機能の回復に関して、3群間に差異は見出せなかった。先行研究では、維持期片麻痺においてBWSTTの歩行機能改善効果が認められた(Hesseら 1994、1995)。その機序として、脊髄レベルにあるcentral pattern generator(CPG)と呼ばれる歩行中枢を刺激して歩行能力を改善することと、持久力の改善、の2点が挙げられた(Van Peppen 2004)。回復期における軽度片麻痺患者を対象とした報告では、歩行速度、持久力の改善が認められた(Visintinら 1998)。重度麻痺を含む回復期片麻痺を対象とした本研究において、BWSTTの効果が認められなかった理由は不明である。効果的にBWSTTを片麻痺のリハビリテーションに用いるためには、介入期間、治療の組み合わせ、介助法および介助量、効果的なタイミング、などについてさらなる研究が必要である。本研究の限界としては、無作為化を行っていないこと、対象者が29例と少なかったことによる統計的パワー不足の可能性があること、評価結果や歩行介助の方法において担当者間の再現性について未検証であること、が挙げられる。以上により、回復期片麻痺患者において、BWSTTの歩行能力回復への運動学習の効果は不十分であることが示唆された。今後、歩行能力向上のためにより戦略的なBWSTTを含む介入方法の開発、そして歩行機能に影響すると考えられる身体機能・制御機能への影響の分析が必要である。【理学療法学研究としての意義】 回復期脳卒中片痺患者の歩行トレーニングにおいてBWSTTは有用であるが、平地歩行トレーニングよりも有用とは言えない。臨床において、BWSTT歩行中の介助法やその他の介入との組み合わせを再検討することが望まれる。