抄録
【はじめに、目的】 脳卒中片麻痺患者の歩行能力に及ぼす因子として痙性麻痺があげられるが、その評価法としてBrunstrome Recovery Stageによる評価(以下BST)が頻用されている。近年は痙性評価に関して、Modified Ashworth Scale(以下MAS)による定性評価がBSTに代わるものとして多用されているところであるが、関節拘縮因子が混入するという指摘もあり、痙性評価としては安定していないとする報告もある。そこで本研究では、関節拘縮因子を除外できる痙性評価方法であるModified Tardieu Scale(以下MTS)に着目し、歩行能力と下肢BST・足関節MAS・足関節MTSの関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は当院に入院・通院する脳卒中片麻痺患者19名で男性12名、女性7名。年齢は69.4±12.5歳(75歳以上:7名、75歳未満:12名)で右麻痺10名、左麻痺9名(下肢BST3:5名 4:5名 5:6名 6:3名)で平均発症後期間は35.9±78.0ヶ月であった。歩行能力評価として10m最速歩行(以下10m歩行)、足関節痙性評価として定性評価であるMASとMTS、定量評価であるMTSR2-R1(slow stretchでひっかかる角度R2、からfast stretchでひっかかる角度R1の差)を行った。統計学的処理はスピアマンの順位相関係数で有意水準5%未満として、 (1)全対象者のデータについて10m歩行とMAS・MTS・MTSR2-R1の相関、(2) 75歳未満での同様の相関、(3)全対象者と75歳未満の対象者においてBST・MAS・MTS・MTSR2-R1の評価間での相関関係について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 倫理委員会の承認の上、対象者全員に口頭にて内容を説明し同意を得た上で実施した。【結果】 (1)全対象者では10m歩行とBSTには負の相関を認めた(r‐0.49,p<0.05)が、他の指標とは相関が認められなかった。(2)75歳未満の対象者では10m歩行とMTSには相関が認められなかったが、BSTとは負の相関 (r‐0.68,p<0.05)、MASとは正の相関 (r0.61,p<0.05)、MTSR2-R1とは正の相関 (r0.63,p<0.05)が認められた。(3)全対象者について、BSTとMASに負の相関(r‐0.81,p<0.01)、MTSとは負の相関 (r‐0.72,p<0.01)、MTSR2-R1とは負の相関 (r‐0.76,p<0.01) が認められた。MASとMTSには正の相関 (r0.84,p<0.01)、MTSR2-R1とは正の相関 (r0.80,p<0.01) が認められた。MTSとMTSR2-R1には正の相関 (r0.83,p<0.01) が認められた。75歳未満の対象者ではBSTとMASに負の相関 (r‐0.89,p<0.01)、MTSとに負の相関(r‐0.61,p<0.05)、MTSR2-R1とに負の相関 (r‐0.68,p<0.05) が認められた。MASとMTSの間に正の相関 (r0.67,p<0.05)、MTSR2-R1とに正の相関(r0.70,p<0.05)、MTSとMTSR2-R1には正の相関が認められた(r0.58,p<0.05)。【考察】 全対象者の中で75歳以上を含む対象者においては歩行能力に対して筋力や意欲などの痙性以外の影響を受けやすく、粗大な運動機能であるBSTのみ相関する結果となったと考えられる。一方、75歳未満の対象者では10m歩行とMAS・MTSR2-R1に相関関係が認められた。より正確に痙性を反映できる評価指標はMTSR2-R1であるという研究報告もあることから75歳未満の対象者は痙性の影響を受けやすい可能性を示唆している。これは75歳以上の対象者に比して持久力や筋力を含む全身機能が高いため、運動の速度が上がりやすく足関節の痙性の影響を受けやすかったと考えられる。 過去の研究報告においてBST・MASは脳卒中片麻痺患者の歩行能力を反映しないことがあるとしているが、今回の結果は75歳未満の対象においては10m歩行とBST・MAS・MTSR2-R1は相関している結果であった。さらにBST・MAS・MTS・MTSR2-R1の評価間の互いの相関も高く認められた。このことから、75歳未満の対象者においてはいずれの痙性評価指標も歩行能力を判定するために有用である可能性が示唆された。しかし、後期高齢者ではBST以外は適応できない可能性も同時に示された。今後対象者を増やし、歩行能力と痙性の関係性を年齢層別、原因疾患別、認知症の区分などで検討し、より正確に明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中片麻痺患者で歩行能力を推察する場合の痙性評価指標として、75歳未満ではBST・MAS・MTSR2-R1が選択できるが、75歳以上の高齢者を含むとBSTのみである可能性が示された点で意義深い。