理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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専門領域 口述
筋萎縮性側索硬化症(ALS)における前頭葉機能と呼吸機能との関連
宮城 しほ吉澤 健太郎上出 直人平賀 よしみ福田 倫也荻野 美恵子
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キーワード: ALS, 呼吸機能, 認知機能
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p. Be0015

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抄録
【目的】 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,上位運動ニューロンや下位運動ニューロンの障害により,上下肢の筋力低下および球麻痺を呈する進行性疾患であるが,近年では認知機能障害の合併により生命予後に差異があることが報告されている(Adriano et al,2011).さらに,ALS患者の認知機能障害では,特に前頭葉機能が低下することが指摘されている(佐々木,2008).ALS患者における予後予測には,呼吸機能の評価を早期から適切な時期に,定期的に実施していくことが重要であるが,実際には呼吸機能評価を適切かつ定期的に実施することが困難であることも少なくない.そこで,呼吸機能評価以外にも簡便な検査によって予後予測に関連する情報を得ることができれば,その意義は極めて大きいと考えられる.一方,前頭葉機能を評価する簡便な検査としてFrontal Assessment Battery(FAB)がある.FABの検査成績が,呼吸機能と関連することが明らかとなれば,予後予測において有益な情報の一つとなりうる.そこで,本研究ではFABの検査結果を基に,前頭葉機能の低下と呼吸機能の低下との関連性を調査することを目的とした.【方法】 対象は,理学療法および言語聴覚療法フォローアップ中のALS患者連続20例(平均年齢66.3±11.0歳)である.認知機能の検査結果には,前頭葉機能を評価するために,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)のカットオフ値である20点以下の知能低下の疑いが高い患者は対象から除外した.さらに,ALS以外の神経変性疾患および精神疾患を合併する患者またはその疑いがある患者も対象から除外した.呼吸機能に関しては吸気筋筋力を評価することとし,一般的な指標とされている努力性肺活量(FVC)と相関性の高い指標として有用性が報告されている鼻腔吸気圧(SNIP)を用いた.SNIPの測定は5回施行し,施行間には30秒間の休憩を入れた.解析には最大値を採用し,さらに年齢や体格,性別の影響を考慮し,SNIP予測値に対する割合(%SNIP)を算出しその後の検討に用いた.なお,%SNIPはKamideら(2009)が報告している予測式に基づき算出した.認知機能の評価に関しては,前頭葉機能の神経心理学的検査の1つであり,前頭葉機能全般をスクリーニング的に評価可能なFABを用いた.FABは,6つの下位項目(類似性,語の流暢性,運動系列,葛藤指示,GO/NO-GO課題,把握行動)で構成された18点満点の評価尺度で,点数が低いほど前頭葉機能の低下を示すものである. 【説明と同意】 本研究実施においては,全例に対して書面による説明と同意を得た.【結果】 前頭葉機能を示すFABの成績に関しては,成績低下がない(18点満点)症例は4例(20.0%),下位項目のうち類似性または語の流暢性で低下を認めた症例は2例(10.0%),類似性と語の流暢性で低下を認めた症例は5例(25.0%),類似性と語の流暢性に加えGO/NO-GO課題に低下を認めた症例が9例(45.0%)であった.GO/NO-GO課題の成績低下を認める症例では,顕著にFABの点数が低かった.呼吸機能に関して,FAB成績に低下がない症例の%SNIPの平均は74.3±33.9,類似性や語の流暢性で低下を認めた症例では73.2±28.2%,類似性と語の流暢性に加えGO/NO-GO課題にも低下を認めた症例では31.8±24.5%と,GO/NO-GO課題の成績低下を認める症例では,顕著に%SNIPが低下していた.【考察】 ALS患者におけるFABの成績低下は一般的に類似性や語の流暢性から始まり,GO/NO-GO課題の低下が引き続くと言われており,本研究においても先行研究と同様の結果を認めた.一方で,本研究の結果,類似性や語の流暢性の成績低下のみでは呼吸機能に変化は認められなかったが,GO/NO-GO課題の低下が加わると呼吸機能の低下が認められる可能性が示唆された.すなわち,類似性および語の流暢性に成績低下を認めるALS患者では,呼吸機能の推移に十分に留意し,呼吸理学療法などのケアを考慮していく必要性があると思われた.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,ALS患者における前頭葉機能の低下は,呼吸機能の低下と関連している可能性が示唆された.従って,簡便な検査であるFABにより前頭葉機能の評価を行うことは,ALS患者に対する呼吸機能の評価や呼吸理学療法を施行していくうえで極めて有益な情報となりうると考えられた.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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