抄録
【はじめに、目的】 シャルコー・マリー・トゥース病(以下CMT)は、末梢神経が障害される遺伝性疾患である。CMTに関する研究は、本邦では1/5,000人といわれる症例数の少なさから、他の神経筋疾患・神経難病に比して少ない。特に、CMTの主症状である筋力低下や筋萎縮に対して筋力トレーニングが実施されるにもかかわらず、CMTの筋疲労特性を報告しているものは散見される程度である。そこで本研究は、持続的な等尺性収縮を運動課題として、同課題中に導出された筋電位および筋出力様態からCMTの筋疲労特性を明らかにするを目的とする。【方法】 対象者は装具・歩行補助具なしに独歩可能な40歳代の男性。症状自覚からの期間は2年、病型はCMT1である。筋疲労課題は、右肘屈曲の最大等尺性収縮(MVCmax)の75%(MVC75%)を持続的に発揮させ、筋疲労により同50%(MVC50%)に逓減するまでの等尺性収縮課題とした。測定肢位は測定側の肘を台上に乗せた座位とした。一端を固定したワイヤーの他方に幅15cmのベルトを取付け、前腕部に巻いた同ベルトを引くようにして肘屈曲90°から肘屈曲等尺性収縮を発揮させた。引張圧縮両用小型ロードセル(共和電業社製)をワイヤーに取付け、同ロードセルからストレインアンプを介して得られた電圧値から筋出力値を算出した。また、筋電位は表面筋電計(DKH社製)を用いて対象側の上腕二頭筋から導出した。筋疲労のパラメータとして、同課題の遂行時間を測定した。さらに同遂行時間を10分割し、分割された10区間ごとの筋電位から中央パワー周波数(MdPF)、平均振幅(RMS)、神経筋効率(NME)を算出した。また、運動課題後に自覚的疲労感を聴取した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。またヘルシンキ条約に基づき、研究開始に当たり対象者へ文書と口頭にて十分な説明を行い、文書での同意を得た。【結果】 筋疲労課題の遂行時間は34.4秒であった。また、同課題により対象者から自覚的疲労感の訴えがあったが、同課題中から得られたMdPF、RMS、NMEについて筋疲労を示す経時的変化は認められなかった。また課題中の筋出力は安定せず、短時間で筋出力が低下した後、筋出力が目標値に向かって上昇する一連の挙動を繰り返すことが観察された。最終的にMVCmax比66.2±12.0%の範囲で変動した(変動係数 0.18)。【考察】 CMT患者の課題遂行時間は、同性同年代の健常成人の59.9秒に比べて著明に短く、その自覚的疲労感とともに、神経筋疾患としての易疲労性が明らかとなった。しかし、同課題中から導出したMdPF、RMS、NMEといった筋電位データから筋疲労を示す所見は認められなかった。以上のことから、CMT患者について、自覚的疲労感と筋疲労による客観的評価結果の乖離が明らかとなった。また、課題中の筋出力の変動は、同性同年代の健常成人のMVCmax比68.9±4.5%(変動係数 0.07)に比べて大きいことが明らかとなった。CMTの筋出力の特徴として本研究で認められた筋出力の不安定性があり、この不安定性が自覚的疲労感を悪化させることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 CMT患者のトレーニングの運動強度を設定するためには、運動課題後の自覚的疲労感と客観的筋疲労評価結果の乖離を考慮すべきである。また、CMT患者は一定の筋出力を保持することが困難であり、同現象が自覚的疲労感を増加させたり、ADLやQOLを低下させる可能性が示唆された。