抄録
【はじめに、目的】 当院では小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に対してA型ボツリヌス毒素(Botulinum toxin A,以下BTA)治療の効果判定に三次元動作解析装置を用いた歩行分析を取り入れている。今回、BTA治療とその後の理学療法介入の経験より新たな知見を得たので報告する。【方法】 症例は8歳女児、脳性麻痺、痙直型両麻痺(GMFCSレベル1)。在胎27週、861g双子の第2子として出生。アプガースコア5/6、3ヶ月間NICU管理。歩行は短下肢装具を用いて修正2歳6ヶ月より開始、現在は装具なし歩行、走行が可能。知的に良好で普通学校に通学している。今回歩行時に左足が突っかかる、転びやすい、上手に歩けるようになりたいという主訴で当院をBTA治療目的に受診。歩容は左Toe Off(以下TO)時の足関節内転、右立脚中期の足関節内反、左右立脚期における足関節背屈、膝関節伸展、股関節伸展不足である。BTA治療は小児科医によって施行され、両側腓腹筋に各40単位、後脛骨筋に各20単位、合計120単位施注した。BTA治療後は2週間に1度の外来理学療法と自主トレ指導を行った。治療の効果判定は施注前、施注後1ヶ月(以下1M)、3ヶ月(以下3M)とし、理学療法評価(MAS、ROM)、三次元動作解析装置による歩行分析を行った。三次元動作解析装置にはローカス3D MA-3000(ANIMA社)を用い、赤外線反射マーカーは被検者の両側の上前腸骨棘、大転子、膝関節裂隙、膝関節点、外果、踵骨、第5中足骨、第1中足骨の体表面16箇所に貼り付け、 6台の赤外線カメラにてマーカー位置を測定した。データはサンプリング周波数100Hzで取り込み、反射マーカーの経時的座標データを算出し、そこからInitial Contact(以下IC)時の足関節背屈角度、TO時の足関節内転角度、立脚期の足関節最大内反角度、立脚期の足関節背屈、膝関節伸展、股関節伸展の最大角度を求め、それぞれ施注前、1M、3Mで比較した。各評価時で左右3歩行周期を分析対象とし、平均±標準偏差を求め検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいた説明を行い、保護者と本人より書面にて本研究の参加への同意を得た。【結果】 下腿三頭筋のMAS(右/左)は施注前2/2、1M1/1+、3M2/2、膝伸展位の足関節背屈ROM(右/左)は、施注前10°/5°、1M20°/10°、3M20°/10°であった。三次元動作解析結果からIC時の足関節背屈角度(右/左)は施注前3.1±1.9°/-4.6±1.7°、1M5.4±1.6°/°-0.4±0.2、3M9.8±0.6°/1.5±0.2°。左TO時の足関節内転角度は施注前12.3±0.9°、1M1.5±0.4°、3M0.5±0.4°。右立脚期の足関節最大内反角度は施注前22.7±1.2°、1M7.9±1.2°、3M2.1±0.6°。足関節最大背屈角度(右/左)は施注前11.6±2.8°/3.0±0.7°、1M13.0±0.4°/9.3±1.9°、3M12.7±0.9°/12.7±1.3°。膝関節最大伸展角度(右/左)は施注前-18.5±1.3°/-7.6±2.3°、1M-13.1±1.2°/-7.8±1.8°、3M-10.9±1.9°/-5.2±1.1°。股関節最大伸展角度(右/左)は施注前3.2±1.1°/4.4±0.3°、1M7.1±0.7°/8.0±0.9°、3M12.6±1.1°/7.3±0.7°となった。【考察】 BTA治療により腓腹筋、後脛骨筋の痙縮が減弱し、IC時の足関節背屈角度、立脚期での足関節背屈の最大角度、左TO時の足関節内転、右立脚中期の足関節内反が改善した。また下腿後面筋に施行したBTA治療が膝、股関節の伸展にも影響を与えることを示唆した。また治療の効果判定が1Mに比べ3MにおいてBTA療法効果が減弱したにも関わらず膝、股関節の伸展が増大していることは理学療法効果と考えられる。症例が自主トレの理解が可能で、毎日行ったことの効果と推察される。今回三次元動作解析装置を用いたことで歩行時の詳細な関節角度を数値化でき、より客観的な歩行分析を可能とした。またその後の理学療法の有効性を示すことができた。これはBTA治療による下肢痙縮の減弱とその状態での運動学習ができたためと推察される。BTA治療は単に下肢痙縮を軽減させるだけでなく、その症例に即した運動療法と併用することで歩容の改善に有効であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究では三次元動作解析を用いたことでBTA治療後の歩行分析、理学療法効果を客観的に示すことができたと考える。